「セカンドボール」とは何か?ウルティモ・ウオモ戦術用語辞典
近年、サッカーの試合中継や各種メディアで頻繁に耳にし、目にするようになったのが、「ポジショナルプレー」や「ハーフスペース」といった戦術用語だ。しかし、その本当の意味や狙いを、果たしてどれほどの人が理解しているだろうか。おそらく、漠然としたイメージしか浮かばない方も少なくないはずだ。そこでイタリアの新世代WEBマガジン『I’Ultimo Uomo(ウルティモ・ウオモ)』の人気連載「戦術用語辞典」を『footballista』の監修のもと1冊の本にまとめた完全保存版『footballista×l’Ultimo Uomo 戦術用語辞典』から、基本用語から新語まで、現代サッカーを語る上で欠かせない戦術的キーワードの一部をお届け。その言葉の成り立ちから一つずつ丁寧に読み解いていこう。
セカンドボールを制することは、守備側にとっても攻撃側にとってもメリットが大きい。古くからある概念ではあるが、現代サッカーにおいては、セカンドボールの回収を狙ってロングボールを送り込むことを戦略の一つとして採り入れているチームも少なくない。
サッカーの普及が始まりルールが固まりつつあった1800年代の終わり、唯一確かなのはピッチ上でプレーできる選手の数、そしてボールがゴールに入ったら1点というゲームの目的だけであり、戦術と呼べるようなものはまだ皆無に等しかった。当時の貴重な証言によって、我々は多かれ少なかれ当時サッカーがどのようにプレーされていたかを、何となくではあるが想像することができる。泥だらけのグラウンドで、今では考えられない服装で重なり合うようにボールを追いかける一塊の選手たち、勝利に近づくための洗練された戦術よりも男達の力強い肉弾戦が尊ばれる空気。ボールは大きな弧を描いてグラウンドのあちらとこちらを飛び交い、地に落ちた瞬間に何人もの敵味方がそこに群がる――。個人技術が発達していなかった当時のサッカーにおいて、こぼれ球やルーズボールをめぐる争いがゲームの多くを占めていたであろうことは想像に難くない。
我々の知る限り、サッカーにおいて「戦術」と呼べるものの始まりは、イングランドの「ロングパッシングゲーム」だ。「キック&ラッシュ」とも呼ばれたこの哲学は、数十年にわたって有効性を保っただけでなく、システム、グラウンダーのショートパスによるコンビネーションといった新たな戦術要素をも上部構造として取り込んだ形で、さらに長い間生き延びることになる。サッカーというゲームの目的が、相手のゴールにボールを入れること(自分のゴールに入れさせないこと)である以上、ボールをできるだけ目的地に近い場所にできるだけ早く送り込み、それがルーズボールになった時には素早く回収して自分たちのものにするというのは、極めて有効な選択肢であると考えられてきた。
それから現代に至るまでサッカーの戦術は大きな進歩を遂げてきた。そのなかでセカンドボールの重要性は、草創期から変わることなく保たれてきた数少ない戦術要素の一つと言える。現場はもちろんジャーナリストやサポーターの間でも、斬新で複雑な用語が使われるようになった現在においてもなお、セカンドボールという概念はそのなかに居場所をしっかりと確保している。
セカンドボールという言葉は一般的に、どちらのチームが保持しているか明確でないボールをめぐって、1人あるいは複数のプレーヤーが争っている状況を指す。この定義そのものはまったく斬新でも複雑でもないが、他の戦術的概念と連結された時にはそのような側面も持ち得る。
セカンドボールを曖昧さのない形で定義するためにはまず、それが起こり得る状況を特定する必要がある。空中戦をはじめパスの受け手にとってボールを収めることが難しい競り合いの直後、どちらも完全にボールを保持していないニュートラルな状態が生じることがある。その瞬間、攻撃側と守備側の双方が相手に先んじてボール保持を回復しようと試みるか、そうでなくとも相手がそのボールを保持した直後のプレーを可能な限り妨害しようと試みる。セカンドボールというのはこの状況を指す言葉だ。
したがってセカンドボールという言葉は、ピッチ上で偶然に起こり得る状況を特定した上で、それへの対処をトレーニングするために必要とされる概念だと考えることができる。しかしより広義には、ロングボールのこぼれ球すべてを指す言葉として使うことも可能だ。
この言葉の正確な語源や初出についての史料を見つけることはできなかったが、「セカンド」つまり「二番目の」という単語から考えれば、何らかの連続性を示す意図を持って作られた言葉である可能性は高いと思われる。まずボールをめぐるデュエルや受け手のコントロールミスがあり、その結果生まれた状況に対処する必要性が生じる、という順番だ。
セカンドボールの戦術的意義
Le implicazioni tattiche delle seconde palle
ルーズボールという状況に本質的に備わっている不確実性、予見不可能性を低減する唯一の方法は、ボールをめぐって争われているゾーンを即座にカバーすることだ。したがって監督はチームに対して、セカンドボールが発生しうる状況を事前に察知し、自分たちのゲームモデルにとって最も効果的な形でそれに対処できる配置を取るよう、トレーニングを行うことになる。
セカンドボールにいかに対応するかという問題は、時の経過とともに、ある種のフィジカル的、技術的特徴を備えたチームにとっては、逆に一つのチャンスとして受け止められるようになった。ここに至って、戦略的にも戦術的にも、セカンドボールの「活用」が明確なコンセプトとして立ち上がってくる。
ロングボールを多用して攻撃するチームにとってセカンドボールは、ターゲットとなる選手が持つハイボールをクリーンに「収める」能力を最大限に活用する上でも、あるいはプレッシングを受けた状況でのボール保持に難があるMFの責任を軽減する上でも、戦術的に根源的な重要性を担い得る。
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ウルティモ ウオモ
ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。