「プレッシング・トリガー」とは何か?ウルティモ・ウオモ戦術用語辞典
近年、サッカーの試合中継や各種メディアで頻繁に耳にし、目にするようになったのが、「ポジショナルプレー」や「ハーフスペース」といった戦術用語だ。しかし、その本当の意味や狙いを、果たしてどれほどの人が理解しているだろうか。おそらく、漠然としたイメージしか浮かばない方も少なくないはずだ。そこでイタリアの新世代WEBマガジン『I’Ultimo Uomo(ウルティモ・ウオモ)』の人気連載「戦術用語辞典」を『footballista』の監修のもと1冊の本にまとめた完全保存版『footballista×l’Ultimo Uomo 戦術用語辞典』から、基本用語から新語まで、現代サッカーを語る上で欠かせない戦術的キーワードの一部をお届け。その言葉の成り立ちから一つずつ丁寧に読み解いていこう。
プレッシングに関して、今や広く使われるようになったのが、「トリガー」、直訳すれば「引き金」「きっかけ」を意味する単語だ。プレッシングを正しく機能させるために、チーム全体としてどのタイミングでそれを発動させるのか。選手が効果的なプレーを選択する上で、「トリガー」は重要なツールとなる。
2017年6月4日、スペインのフエルバで開かれたあるセミナーで、ペップ・グアルディオラの評伝で知られるジャーナリスト、マルティ・ペラルナウが、こんなタイトルのスライドをスクリーンに映し出した。
「チームのアイデンティティを構成する要素は何か?」
その答えは3点に集約されていた。アイディア、人、そして語彙だ。1つ目が監督の意思、2つ目がグループの結束と共通の目的意識を指すと語った後、ペラルナウは3つ目の解説に何分かの時間を費やした。語彙というのは、どこの国の言葉を使うかではなく、頭の中にあるアイディアを人々に伝える道具としての言葉を指している。
ペラルナウに言わせると、スポーツの世界において語彙(用語と言い換えることもできる)は、監督にとって限りない挑戦だ。頭の中にある複雑なアイディアを、必要に迫られてたったひとつの言葉に凝縮する時点で、すでにそこから何かが失われることは避けられない。ペラルナウは挑発的にこう言う。
「サッカー用語は万能か? もちろん。必ず混乱を招くという意味でだが」
サッカーを語る人々がメタファー(隠喩)を多用したり、他のスポーツ、時には他の分野から用語を拝借したりするようになったのも、まさにこの問題を乗り越えるためだ。アイディアを理解するための時間と労力を最低限に抑える上で、誰にでも分かりやすく、また伝わりやすい概念、原則、数字、画像などを使った「メタ言語」や「コード」が必要とされるようになったのも、その結果と言える。
「戦術用語辞典」における本章のテーマは、アイディアと意思をいかに伝えるかという問題と密接に関わっている。ここで掘り下げていくのは、現代サッカーにおいてますます重視されてきた局面、すなわちプレッシングに関して今や広く使われるようになった「トリガー」という語彙についてだ。直訳すると「引き金」「きっかけ」を意味するこの単語は、サッカーにおいては、ボールを持たない側のチームがプレッシング(複数の選手が組織的に相手のプレーを妨げようとする試み)やプレッシャー(1人の選手がボールホルダーに対して行う同じ試み)を「発動」させる合図となる振る舞いを指す。
プレッシングもプレッシャーも、相手からプレーのためのスペースと時間を削り取り、自分たちが持つプレー原則に基づいて、次に目指すべきプレー(カウンターにせよポゼッションと配置の確立にせよ)にとって最も有効な形でのボール奪回を目的とする行為だ。モダンサッカーにおいて、後方からのビルドアップを行うチームの数は増える一方であり、それに対して自分たちのゲームモデル、選手の特徴、そして相手のタイプに応じて効果的な形でのプレッシングを組織することは、どんなチームにとっても不可欠な課題となってきている。
プレッシングを正しく機能させるためには、チーム全体がどのように、そしてとりわけどのタイミングでそれを発動させるかが重要だ。「トリガー」が問題になるのはまさにその一点においてである。
プレッシングをいつ発動するか
Quando viene attivato il pressing
ピッチ上で起こる状況のいくつかは、プレスの強度を高め、短時間でのボール奪回を試みるきっかけとなり得ると広く認められ、共有されている。もちろん、これらのうちどれをトリガーとして採用し、どれを採用しないかは、チームによってそれぞれ異なっているにしてもだ。いつ、どのように発動するかは様々な条件(試合展開、フィジカルコンディション、対戦相手のタイプなど)によって左右されるが、一般的に次に挙げる状況はプレッシングを発動するトリガーに適していると考えられている。
・相手のバックパス
・パスレシーブ時のコントロールミスやプレー方向が自ずと限定されるような身体の向き
・利き足でない足でのコントロール
・スピードの遅いパスやミスパス
・自軍ゴールに身体を向けた状態のコントロール
・横パス
・ボールホルダーに躊躇がある
・縦パス直後に生じたセカンドボール
・守備者の直近にボールホルダーがいる
プレッシングの目的としては、直接的なボール奪回だけでなく、相手のあらゆる攻撃アクションの妨害、あるいは特定の方向やゾーンに攻撃を誘導し、さらに厳しいプレスによるボール奪回と逆襲の起点を作ることが挙げられる。
実際、すべてのチームが相手のビルドアップをサイドに誘導するわけではないし、GKへのバックパスに対してプレッシングを行わないチームもある。そうした選択は、ボール非保持の局面におけるリスクを最小化することに加えて、ボール奪回からどのようなメリットを引き出すか、その優先順位の置き方にも関わってくる。……
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Profile
ウルティモ ウオモ
ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。