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『調和』と『渇望』。柿谷曜一朗が徳島ヴォルティスで果たしているピッチ外の貢献

2023.07.07

ダメな時こそ人の真価が問われるものだが、柿谷曜一朗はどんなにチーム状態が悪くてもネガティブな言葉を決して発さず、スペインからやって来たラバイン監督を支え続けた。『調和』を重んじ、上を目指す『渇望』をポジティブなメッセージとして伝え続ける。「8番」を背負った33歳は、徳島ヴォルティスで自分ができる最大限の貢献を果たしている。

落ち込むラバイン監督の「素」を引き出す心配り

 4月9日、ベニャートラバイン監督が普通の笑顔をこぼす瞬間を初めて見た。

 4月29日の第12節・磐田戦(〇3-2)が今季初勝利であったように、シーズン序盤は特に苦しい時間が続いた。開幕から約2カ月半、未勝利の期間がこれだけ長く続けばさまざまな意見が一人歩きするようになり、表情は陰り、ネガティブなマインドに侵食されていくのは誰にとっても普通だ。10人いれば10個の感情がそこには存在する。

 そして、こういう時に指揮官という立場は孤立しがちなものかもしれない。しかし、そうさせなかったのが柿谷曜一朗だったように思う。

 冒頭で挙げた4月9日は、アウェイで行われた第8節・千葉戦(△2-2)の翌日。連戦中で千葉戦に出場した選手のリカバーと、ベンチ外だった選手の通常メニューが同時に行われるような日だった。練習前に、倉庫へ練習道具を取りに向かうラバイン監督と偶然会った。小澤哲也通訳はいなかったが、大体のニュアンスは伝わるだろうと日本語で「元気?」と投げかけてみると、少し暗い表情で顔を左右に振った。日本語なのに伝わったという余談はさておき、すぐさま「バモバモ!(頑張るぞ!)」(ラバイン監督)と切り替えてピッチへ戻った。ただ、わずかでも弱気な側面を垣間見せた指揮官の姿に胸中を察した。

 しかし、同日、そんなラバイン監督の表情を緩ませる出来事があった。そこで一緒に居たのは柿谷だった。

Photo: TOKUSHIMA VORTIS

 ラバイン監督が選手を指導したり、コミュニケーションを図っている姿はよく見かけるが、雑談のような時間を過ごしている様子はあまり見かけない頃だった。ただ、その日は例外だった。柿谷とラバイン監督が通訳を交えて3人でピッチに座って長々と話している様子があった。サッカー的な話だけではなく、雑談もあったのだろう。ラバイン監督の表情が少しずつ朗らかになり、最終的には指揮官という肩書きではなく、人としてごく普通の笑顔をこぼした。その様子を写真で撮ろうとしてしまうバカさ加減はメディアとしての性だと自覚はあったが、練習場の中と外を分ける網越しに望遠レンズでコッソリ狙うとファインダーを通してラバイン監督と目が合ってしまった。邪魔をしてしまったと後悔はしたが、この原稿の導入を書くことができたので無駄にはなっていない。と、思い込むことにする。

 「初めて監督をする立場であり、日本に来るのも初めてだけど、監督としてという以前に人間として素晴らしいと思う。だからこそ勝たせてあげたいという気持ちは強くなる。それは僕だけじゃなくて、試合に出てない選手も含めてそういう想いになっていくようなチームにならないといけない。監督は徳島を強くするために来てくれているし、僕自身も徳島をもっと強いチームにしたいという想いで帰って来ました。共通する部分があり、互いにリスペクトをしながら徳島をもっと強くしたいという一緒の想いがあると僕は思っています」(柿谷)……

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徳島ヴォルティス柿谷曜一朗

Profile

柏原 敏

徳島県松茂町出身。徳島ヴォルティスの記者。表現関係全般が好きなおじさん。発想のバックグラウンドは映画とお笑い。座右の銘は「正しいことをしたければ偉くなれ」(和久平八郎/踊る大捜査線)。プライベートでは『白飯をタレでよごす会』の会長を務め、タレ的なものを纏った料理を白飯にバウンドさせて完成する美と美味を語り合う有意義な暇を楽しんでいる。

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