[4-3-3]のフォーメーションが深く浸透しているオランダは、歴史的に数多くの名ウイングを輩出してきた。近年ではデパイやマーレン、リバプールに移籍したガクポなどが目立っているが、「ウイング王国」の現状を中田徹氏にレポートしてもらおう。23年5月号フットボリスタ本誌記事からリーグ優勝したフェイエノールトのウイング事情、オランダ代表の最新動向を加筆して転載する。
やはりオランダは[4-3-3]の国ということもあり、多くのチームがこのシステムを採用している。しかし、10番タイプやストライカータイプをウイングに配置することが多く、またサイドアタッカータイプも中で器用にプレーする選手が増えたため[4-3-2-1]と記した方がしっくり来るケースが多い。
22-23シーズン、最も魅力ある[4-3-3]を披露したのはトゥエンテではないだろうか。左右にミシジャン、ツェルニーというドリブラーを据えたワイドからの仕掛けは迫力十分。ミシジャンが負傷しても若いクレオニセ、サラー・エディン(本職はSB)を抜擢し、チームとしてのスタイルを変えることなく戦った。
アヤックスとPSVの明暗は、モデルの有無?
かつてのウイングの宝庫、アヤックスはやや[4-3-2-1]寄りになっている。右ワイドに立つのは10番タイプのクドゥス。左ワイドのベルフワインはサイドアタッカーとしての資質を持つものの、フリーロール役に近い。“偽9番”タディッチを左右のウイングに配置するケースも多かった。
近年のアヤックスが抱えるジレンマは、育成からトップチームに昇格してブレイクする選手がいないこと。ベルフワインはPSV、トッテナムを経由して古巣に戻ってきた。また、トゥエンテで挙げた4人のウインガーのうちミシジャンを除く3人がアヤックス・アカデミーの経験を持つ。
近年のアヤックス産ウインガーの代表例はジュスティン・クライファート(現バレンシア)、ノア・ラン(現クラブ・ブルージュ)だが、アヤックスのトップチームにいた時期は極めて短く「アヤックスでブレイクを果たした」とは言いがたい。右SB、CB、MFには育成のモデルとなる選手が多いアヤックスだが、ウイングに関しては理想形のタイプを探っている感じだ。
一方、デパイ(現アトレチコ・マドリー)を皮切りにベルフワイン(現アヤックス)、マーレン(現ドルトムント)、イハターレン(現ユベントス)、ガクポ(現リバプール)、マデュエケ(現チェルシー)、バカヨコといった規格外のサイドアタッカーがトップチームデビューを果たしたのがPSVだ。その下のリザーブチームにはアイサーク・ババディという18歳のホープが控えている。
プロへの最終局面ではPSVが磨きをかけたものの、ベルフワインとマーレンはアヤックス・アカデミーのOBでもある。ベルフワインはアヤックスをクビになり、マーレンはアーセナルに青田買いされた。デパイはスパルタの育成出身、マデュエケはイングランド人、バカヨコはベルギー人、ババディはNECアカデミーからの移籍と、PSVのサイドアタッカー陣は出自が多岐に渡るが、「一人で打開でき、コンビネーションも得意」「ライン際で爆発力のあるドリブルができる」「カットインからの強烈なシュートを持つ」「(バカヨコを除き)10番、CFといった中央でのプレーができる」「スルーパスが得意」などといった共通点がある。こうした多機能性を背景に左ウイングのデパイとガクポは、後にCFとして重宝されるようになった。……
Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。