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全380試合観たマッチレビュアーと振り返る22-23プレミアリーグの戦術トレンド5つ

2023.06.13

アーセナルと熾烈な優勝争いを繰り広げたマンチェスター・シティの3連覇で幕を閉じた22-23シーズンのプレミアリーグ。2季連続で全380試合を見届けたマッチレビュアーのせこ氏と、戦術トレンド5つを振り返ってみよう。

 22-23シーズンのプレミアリーグもいろいろなことがあった。真っ先に思いつくのがトーマス・トゥヘルとアントニオ・コンテの握手コントだったことにはいいのか自分!という気持ちはあるが、ひとまず今季もまたプレミアリーグ全380試合の観賞を完走することができた。というわけで自分なりに考えた年間の戦術トレンドを5つ振り返っていきたい。

第2節チェルシー対トッテナムでの一幕。ヒートアップした両者にはレッドカードが提示された

①カタールW杯開催による過密日程

 プレミアリーグ3連覇を果たしたマンチェスター・シティの勝ち点は89。優勝チームの勝ち点としては直近7年間で2番目に低い数字であった。

 その理由の1つとしては、年間を通して高出力で走り切ることができたチームがいないことだろう。プレミアリーグは『トランスファーマルクト』を見ても他の4大リーグと2倍以上の選手市場価値がある通り、下位チームでも多額の移籍金を払って獲得した選手たちがゴロゴロいる。テンションが少しでも落ちれば足下をすくわれてしまう。

 シーズン開幕当初、この懸念に真っ先にぶち当たったのはCL出場クラブである。カタールW杯が冬に開催される影響で、例年は隔週開催のCLグループステージが2週連続開催になっていた。リーグ戦も含めて負けられない強度の高い試合を週2で行うサイクルを繰り返した結果、ケガ人の多発でリバプールは年越しを待たずして優勝争いから脱落してしまった感がある。前半戦はシティですら不安定な戦いぶりに終始していたほどだ。

 そのサイクルをうまく利用したのが、快進撃を果たしたアーセナルだ。ELというミッドウィークにターンオーバーしても戦績を残せるコンペティションに参加していたこともあり、週末は主力に固定されていたメンバーが大暴れ。ライバルたちが週2の出力制御に迷っている中、週末をフルスロットルで駆け抜けてあっという間に差をつけた。前半戦で首位を快走したアーセナルは特殊なW杯イヤーの日程を最もうまく利用したといえるだろう。

22-23シーズンを彩った2位躍進のアーセナルは7年ぶりのCL出場権を獲得。来季はシティのプレミア4連覇を阻止できるか

 そのアーセナルをシティが逆転できたのは、週2での出力制御を完全に身につけたこと。特にリーグ戦では相手と組み合いながら、狙い目となりそうな場所を分析。弱みにつけ込みながら一気に畳みかけて点差を広げていくパターンがはまる試合が多かった。そして、セーフティリードを得たら出力を落としてボール保持を延々と繰り返しながら逃げ切る。アーセナルの先行逃げ切りモデルがDF陣を中心とするケガ人続出で維持できなくなるのと入れ替わるように90分の起伏をコントロールしながら、過密日程を少ない負傷者と高いレベルのローテーションで乗り切ることができた。

 一方、年明けに日程面で苦しんだのはマンチェスター・ユナイテッド。リーグカップ優勝、ELベスト8、FAカップ決勝進出とすべてのコンペティションで勝ち残った影響もあり、W杯中断明けから春先までの約5カ月間で計41戦をこなしたようにミッドウィークの試合が続いた。同期間でFAカップ制覇とCL決勝進出を果たしたシティの計38戦を上回る殺人的なスケジュールで優勝争いについていくのは無理筋だった。

 加えて終盤に疲労の色の濃さを感じたのはブライトン。鉄道ストライキやエリザベス女王崩御という不可抗力で発生したリーグ戦延期にFA杯で準決勝に進出する躍進が重なり、未消化分がシーズン終盤に襲いかかる。4月と5月の2カ月間はシティ(16試合)、ユナイテッド(15試合)に次ぐ、14試合をこなした中で強度が下がるのは仕方ないだろう。それでもクラブ史上最高成績の6位に入りEL出場権を勝ち取ったのだから胸を張っていいシーズンだった。

 こうしてみると、頭一つ抜けていたトップ2は日程ともうまく付き合った。前半戦のコンディション差でライバルに一気に差をつけたアーセナル、そして週2試合のスケジュールに高い水準で折り合いを見つけたシティ。他のチームが対応しきれなかった変則シーズンを味方につけた両者が優勝を争ったのは、ある意味当然なのかもしれない。

② [3-2]型ビルドアップ

 ペップ・グアルディオラがバイエルン監督時代にSBが中盤へ入っていく役割をダビド・アラバに託したのを契機に広く知られるようになった偽SB。4バック+アンカーのシステムを採用しているチームが[3-2]に変形して行うビルドアップは、グアルディオラのシティ監督就任をきっかけに今やプレミアリーグでも定着している。

 この[3-2]型ビルドアップ導入して流れが変わったチームが3つある。真っ先に触れておきたいのはアーセナルだ。シーズン開幕当初から少しずつSBが絞るアクションを行うようになり、シーズン終盤にかけてその頻度はかなり高くなっていった。

 アーセナルが[3-2]型にシフトした理由はシンプル。補強したキャストに対する当て書きだろう。前所属のシティでグアルディオラに本職の中盤から左SBにコンバートされ、プレミアリーグにおける偽SBとしては第一人者を担ってきたオレクサンドル・ジンチェンコを夏に獲得したからだ。

 序盤戦はSBの絞る頻度を起用選手のキャラクターに合わせてある程度制御していたように見えるアーセナルのミケル・アルテタ監督だったが、終盤戦は大外を駆け上がる動きが得意なティアニーにもジンチェンコとほぼ同じエリアでのプレーを要求。故障がちなジンチェンコが欠場しても維持すべきと判断したくらいには、[3-2]型ビルドアップの完成度が高まったということかもしれない。

 一方シティが[3-2]型へのシフトを明確にしたのはW杯明け。下部組織出身の新星リコ・ルイスの右SB抜擢からだった。組み立てでは中盤でアンカーのロドリを助けつつ、崩しでは3人目の刺客として前線に飛び出していける18歳の登用は、間違いなく今季のシティのブレイクスルーだった。

トップチーム初年度ながら14試合に出場したR.ルイス。ペップは来季、期待の新星にどのような役割を与えるのか

 しかし終盤戦では悲願のCL初制覇に本気を出したのか、破壊力よりも後方の堅さを維持できるようにリコ・ルイスの役割を本職CBのジョン・ストーンズに託すと、守備ブロックの強度を担保できる[3-2]型のアレンジに成功する。誰がインサイドに入っても問題ないシティの均質性をかけ合わせた見事な一手だった。なおストーンズはCBのポジションに戻っても列上げを行うようになり、偽CBとしても新境地を開拓している。……

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プレミアリーグ

Profile

せこ

野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。

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