TACTICAL FRONTIER
サッカー戦術の最前線は近年急激なスピードで進化している。インターネットの発達で国境を越えた情報にアクセスできるようになり、指導者のキャリア形成や目指すサッカースタイルに明らかな変化が生まれた。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つのは、どんな未来なのか? すでに世界各国で起こり始めている“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代サッカーの新しい楽しみ方を提案したい。
※『フットボリスタ第96号』より掲載。
フットボールの母国、イングランドを本拠地にする統計データ企業である『StatsBomb』は浦和レッズとの提携でJリーグ市場に参入した。その『StatsBomb』がデータをベースに2019年の記事で「SBの分類」を発表したことは過去にこの連載でも紹介した通りだ。彼らはサイドを上下動する伝統的なSBを「オーバーラッピング・サイドバック」と定義し、ペップ・グアルディオラが積極的に導入している「偽SB」や「守備的なSB」と区別した。
また、この記事で彼らが定義した新しい概念が「補助センターバック」だ。マンチェスター・ユナイテッドのルーク・ショーやマンチェスター・シティのカイル・ウォーカーのように、彼らはビルドアップの局面で「3バックの一角」となることでCBをサポートする。偽SBが中盤のポジションでプレーすることを好むのと比べると、プレーエリアの違いは明白だ。さらに言えば、彼らはCBのポジションにも縛られない。特にウォーカーはビルドアップの局面ではCBとしてプレーしながら、長い距離をオーバーラップすることでチームの攻撃を活性化させることができる。守備面では偽SBよりも求められるタスクが多く、カウンター対応の要となることも少なくない。このように「プレーエリアをベースにポジションを今まで以上に細かく分類・定義する」視点は興味深いものだ。そこで今回は、欧州フットボールでも常識となった「偽9番」というポジションを細かく分類・定義することで、新しい観点を探していきたい。
偽9番の2つのタイプ
本稿での偽9番の定義は、チームの最前線でプレーするCFでありながら、自分のポジションに固執せずに様々なエリアを動き回るフリーロール的なタスクを担う選手を指すこととする。
古くはハンガリーのマジック・マジャールなどでも使われており、グアルディオラがリオネル・メッシを偽9番として起用したことも話題になった。従来のストライカーがペナルティエリア内を仕事場にしているのと比べると、偽9番はサイドや中盤を動き回りながら、チームの流動を助けている。多くの偽9番はプレーエリアに固執しない器用な選手が多く、屈強な肉体よりもテクニックと敏捷性を武器にする傾向にある。また、1.5列目のスペースを左右に幅広く動き回ることから、サイドで強さを発揮するウイングを本職とする選手も少なくない。一方で、中央でのプレーを得意とするトップ下的な偽9番もいる。つまり、偽9番は2つのタイプに分類可能だ。
タイプ①左右均等、もしくは中央を得意とする偽9番
例えば、ガブリエウ・ジェズスやフリアン・アルバレスは広いプレーエリアを誇るが、左右へのポジション移動が比較的「均等」なタイプだ。彼らは器用に動き回りながら、それこそ縦横無尽にプレーエリアを変えていく。……
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。