J2栃木SCが今季からホームスタジアムにおける決済の完全キャッシュレス化に踏み切り、確実に売り上げを伸ばしている。老若男女が集うサッカースタジアムでの完全キャッシュレス化の反響はいかに。そのメリット・デメリット、売り上げ増に繋がる理由などについて、クラブの担当者に話を聞いた。
予想された心配をよそに売り上げ増に成功
「売上は確実に上がっていますね」
今季、完全キャッシュレス化をスタートさせてからしばらくした頃、J2栃木SCの担当者に実情を聞いてみると彼はホクホク顔だった。
栃木SCが今季、ホームスタジアムにおける完全キャッシュレス化に踏み切り、売り上げ増に成功している。
完全キャッシュレス化とは、スタジアム内での販売における決済をすべて電子化することを指す(それでも“現金派”という方は専用のプリペイドカードに現金をチャージすればOK!)。
プロジェクトの担当者であるマーケティング戦略部の金子真規さんは「我々のような地方クラブは老若男女が集まることを大前提にする以上、導入には懐疑的なところもありました。ただ、いざ導入すると大きな支障もなく、売り上げも見込みどおりに上がっているんです」と笑顔を見せる。
今回、完全キャッシュレス化に踏み切るに至った背景、実際に導入した時の反響や売り上げの推移、メリット・デメリットなど、具体的な実情について話を聞かせてもらった。
まず、完全キャッシュレス化に踏み切った時の背景はこうだ。
「もともとV・ファーレン長崎さんの現場で稼働していたシステムなんです。一昨年のアウェイゲームで視察した時に、現場担当者の方に説明をいただき、なるほど、これはいいぞ、という感触を得たという経緯です」
当時の栃木SCはスタジアム内で一部店舗がそれぞれの電子決済システムを使用し、同時に現金決済をメインに対応している状況だった。
「今後の世の中の動きを見据えれば、キャッシュレス化が進んでいくだろうと予想できます。先に導入されているクラブの実情を参考にしながら、完全キャッシュレス化することが利便性や売り上げ増に繋がるとの提案も受け、思い切って導入に踏み切る価値があると決断しました。僕らが持っていた不安点がほぼ潰され、やらない理由が見当たらなかったんです」
栃木SCは昨季から当該システムを使い始めただが、まだ完全移行ではなく、現金決済もできる方法を併用しながら新システムの“試運転”を済ませ、今季から完全キャッシュレス化に移行した。
完全キャッシュレス化するメリットとして、以下のようなものが見込めたという。
・現金を使用することによるトラブル回避、盗難、不正などの回避
・各店舗が負担する経理業務をカット
・現場での会計時間の短縮
・店舗ごとだった決済手段を統一することによるユーザー側の利便性向上
・売上増
完全キャッシュレス化することで、お金の流れが大きく変わっている。
従来は、各店舗が売り上げた数字からクラブに手数料を支払っていたが、完全キャッシュレス化したあとは、クラブがホームゲームにおけるすべての売上をとりまとめたあと、クラブが受け取る手数料を差し引き、残りの金額を各店舗の売り上げごとに振り分けるという流れになった。
これにより「現金を使用することによるトラブル回避、盗難、不正などの回避」「各店舗が負担する経理業務のカット」が実現した。出店する側はその上で売り上げ増に繋がるというのだからメリットの方が大きかった。
“現金派”の方々のフォローなど、デメリットへの柔軟な対応が功を奏す
一方、ユーザー側にとってはどうか。普段からすでに“完全キャッシュレス化”している方も多数いるが、中には“現金派”もいる。そういう方々を切り捨てることなく、救済できることが導入を後押しした大きな理由にある。……
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Profile
鈴木 康浩
1978年、栃木県生まれ。ライター・編集者。サッカー書籍の構成・編集は30作以上。松田浩氏との共著に『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』がある。普段は『EL GOLAZO』やWEBマガジン『栃木フットボールマガジン』で栃木SCの日々の記録に明け暮れる。YouTubeのJ論ライブ『J2バスターズ』にも出演中。