トゥヘルの下で3勝1分2敗、ポッターの下で7勝7分8敗、ブルーノ・サルトール(暫定)の下で1分、ランパード(暫定)の下で1勝2分6敗。11勝11分16敗・38得点47失点、勝ち点44、27年ぶりのボトムハーフ転落となるプレミアリーグ12位で、チェルシーの2022-23シーズンが終了した。就任間近と伝えられる51歳のアルゼンチン人指揮官は、混迷を極めたチームを立て直せるだろうか。
81%が回答、「新監督に適任」である理由
正式発表への秒読み段階と言われたまま2週間が経過した、マウリシオ・ポチェッティーノのチェルシー監督就任。その間にも、お膝元である西ロンドンでさほど物議を醸してはいない事実が、背に腹は代えられないクラブの事情を物語る。新オーナーによる急転直下のトーマス・トゥヘル解任は昨年9月。続くグレアム・ポッター体制には7カ月間で終止符。今季末までの暫定指揮を任されたフランク・ランパードから、試合内容も順位も「プレミアリーグ中位」然としてしまったチームを引き継ぐ新監督は、昨年7月までの前パリ・サンジェルマン(PSG)指揮官ではなく、はるかに元トッテナム指揮官としての印象が強い。2019年11月までロンドン市内のライバルに今世紀最大の活気と興奮をもたらした人物だ。
地元チェルシーサポーターの間では、国内メディアが「パーフェクト・フィット」とまで表現する就任を「喜べない」とする声も一部にありはした。だがそれも、トッテナムでの過去に対する感情ではなく、トッテナム時代の結果に基づいている。ポチェッティーノは、これまでの監督キャリアにおけるハイライトとも言うべき北ロンドンでの5年半でタイトル獲得を実現できていない。就任1年目の2014-15シーズン、リーグカップ決勝で敗れた相手はチェルシー。翌シーズンには2点差を追いつかれたチェルシー戦でプレミア優勝の望みが途絶えた。自らの下では最高順位となる2位につけた2016-17シーズンのリーグ優勝はチェルシーで、勝てば「欧州王者は未来永劫に名乗れないな」とダービーでやり込められなくなる2019年CL決勝も、リバプールとのプレミア対決敗北が半年後に訪れる解任劇への序曲となるという無冠ストーリーでもあった。
しかし、トロフィーではなく無形の成果に目を向ければ、ポチェッティーノという人選はチェルシーにとって正解と映る。契約合意が報じられた英国時間5月13日夜、『タイムズ』紙のオンライン版では読者アンケート回答者の81%が「ポチェッティーノはチェルシー新監督に適任」としていた。筆者も、その1人。個人的には、災いが福に転じたとさえ理解している。トッド・ベーリーを代表とする新経営陣が簡単に捨てるわけにはいかない長期展望の下に成功を目指すクラブにおいて、選手を使って育てながら、明確な攻撃的スタイルと確固たる信念を持つチームを作り上げる監督のグレードアップに成功したと言えるからだ。チェルシーは、プレミア昇格6年目のブライトンから引き抜いたポッターとは違い、国内計3冠のPSGで勝利へのプレッシャーと大物選手のハンドリングを含むビッグクラブ経験も持つ51歳の実力者を、来季はCLにも、ELにも、欧州第3の大会であるヨーロッパカンファレンスリーグにも出場できない環境に呼び寄せることができた。
9年前のケイン、ウォーカーのようなスター候補たちと
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。