プレミアリーグで1試合を残して4位以内を確定させたニューカッスル。実に20年ぶりとなるCL出場権獲得に注目が集まったが、それ以上に話題を呼んでいるのは古豪を復活へ導いたエディ・ハウ監督より目立つアシスタントコーチの存在だ。欧州サッカー界で空前のミームと化しているジェイソン・ティンダルの経歴と役割を、Twitterでは「Newcastle United Japan」、YouTubeでは「NUFC JAPAN TV」で愛するニューカッスルにまつわる情報を発信しているWassy氏が紹介する。
プレミアリーグ第36節のリーズ対ニューカッスル(2-2)では、テクニカルエリアに立つ2人の人物にスポットライトが当たっていた。
1人目はリーズの指揮官に就任したばかりのサム・アラダイスだ。「残留請負人」の誉れ高いベテラン監督は、ボトム3に沈むチームを降格の危機から救うというミッションを引き受けたものの、就任時点でシーズン終了まで4試合と残された時間があまりにも少ない上に、前節に敵地で首位マンチェスター・シティに敗れて後がない状況。この日は本拠エランド・ロードでの初陣となるだけでなく、古巣対戦ということもあり、両クラブのサポーターから注目を集めていた。
だがそれを凌ぐ脚光を浴びた人物が、アウェイ側のベンチにいた。例年残留争いに巻き込まれていたニューカッスルをイングランド屈指の攻撃的なチームへと変貌させ、プレミアリーグのシーズン最優秀監督候補にもノミネートされているエディ・ハウ監督……ではなく、その右腕を務めているアシスタントコーチのジェイソン・ティンダルだ。
実は試合の1カ月ほど前から、SNSを中心にティンダルの立ち振る舞いは度々話題となってきた。その火付け役となったのは、とあるTwitterアカウントだ。「Jason Tindall desperate to be centre of attention」、日本語に訳すと「ジェイソン・ティンダルは目立ちたがり屋」というユーザーネーム。その名の通りティンダルがエディ・ハウ監督よりも目立つ様子を“出しゃばっている”と捉え、ツッコミどころ満載の写真や動画を交えながら告発している。
なるほど。言われてみれば過去の集合写真のどれを見返してみても、彼が前列中央に陣取るのはもはや日常茶飯事。試合中にもタッチラインいっぱいまで出ていって身振り手振りを交えなから選手に指示を送るなど、ハウに勝る“指揮官顔”を披露しているではないか。試合後もまずは監督同士が握手を交わして健闘を称え合うのが恒例だが、いつもティンダルはハウをオーバーラップして真っ先に敵将の手をつかみに行く。プレミアリーグ第23節では、ついにボーンマス監督のガリー・オニールからスルーされたくらい自己主張が強いのだ。
「Jason Tindall desperate to be centre of attention」の投稿はたちまちサッカーファンの話題をさらい、今では5万人以上のフォロワーを抱える有名アカウントへと成長。もはやティンダルが写り込んでいるだけで面白いという文脈まで達すると、5月11日にニューカッスル公式Twitterが便乗したのをきっかけに、欧州サッカー界を巻き込む一大ムーブメントと化した。
例えばプレシーズンマッチでニューカッスルと対戦していたアスレティック・ビルバオも翌日、唐突にティンダルとエルネスト・バルベルデ監督のツーショット写真をツイート。
13日には何の関係もないドルトムントの公式Twitterからも試合中に突如、真剣な表情でPKを蹴るジュード・ベリンガムの背後に不気味な笑顔を浮かべるティンダルが合成されたシュールな1枚が投稿されるなど、今やそのネタはスペインやドイツにまで知れ渡っている。
乗るしかない、このビッグウェーブに!そう感じた我われ日本のサポーターグループ「Newcastle United Japan」も、ティンダルのお面をつけて記念撮影を行ったほどだ。
この一連の騒動はSNSに疎いハウの耳にも届いており、リーズ戦前の記者会見はその話題で持ちきりとなった。
「面白いね。送られてきた色々なメッセージを見ながら、30分くらい2人で笑っていた。イケメンだからって、カメラを向けられるとニコッとするんだよね(笑)」(ハウ)
アシスタントコーチという立場でありながらも監督以上に存在感を放ち、今や世界的なミームと化したティンダルの人物像に迫るため、まずは現在のパートナーであるハウとの関係性を紐解いていこう。
15年来の「殴りたくなるけど愛すべきパートナー」
ハウとティンダルのコンビを表現するには、まさに“一心同体”という言葉がピッタリだろう。4部最下位に沈んでいたボーンマスの監督にハウが就任した2008年から現在までの15年間のうち、ほとんどを二人三脚で歩んできたからだ。……
Profile
Wassy
1994年生まれ、埼玉県出身。ハテム・ベン・アルファのドリブルに衝撃を受けニューカッスルサポーターに。現在はNewcastle United Japanの中の人として、Twitterを中心に情報発信している。YouTubeチャンネル「NUFC JAPAN TV」には深堀り解説動画も投稿中。