皆さんもご存じの通り、WOWOWのスペインリーグの中継が今季限りで終了することが発表された。名物コンテンツの消滅は寂しい限りだ。
2003-04シーズン、デイビッド・ベッカムがレアル・マドリーに、ロナウジーニョがバルセロナに入団するシーズンが放送開始だから、20シーズン続いたことになる。
『footballista』とのコラボも
銀河系軍団の誕生と衰退、バルセロナの復活と2強時代の到来、リオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウド、ジョゼップ・グアルディオラとジョゼ・モウリーニョのつばぜり合い、EURO連覇とFIFAワールドカップ優勝によるスペイン代表の黄金時代、アトレティコ・マドリー台頭による3強時代突入というスペインサッカーの隆盛の陰には、毎週地道に中継を行う彼らの姿があった。取材先で見かけると同じ日本人として頼もしく思ったし、『footballista』編集長時代には何度かコラボレーションをさせてもらってもいる。
今も強く印象に残っているのは、クラシコをテーマにした番組でBチーム監督時代(07-08)のグアルディオラにインタビューしたこと。翌年にトップチーム監督に抜擢され、あっという間に世界的な名将になってインタビューを受けなくなってしまったので、大変貴重な機会をいただいたわけだ。
放送終了の理由は、日本での報道によると「放映権料の高騰」とされる。リーガ隆盛の歴史はそのまま放映権料高騰の歴史である。
コンテンツとしての魅力に陰りも
WOWOWがいくら払っていたかはわからないが、想像はつく。ラ・リーガの資料によると、2013-14シーズンに8億4000万ユーロ(現在のレートで約1252億2000万円)だった放映権料収入は、2021-22シーズンには17億8800万ユーロ(約2676億5000万円)と倍以上になっている。特に各クラブの個別販売からラ・リーガの一括販売に切り替わった2015-16シーズンには、前年比40%増と急騰している。
ハビエル・テバス会長は高値での売却に胸を張り続けてきたが、それはそのまま日本側の負担増を意味していた。
ただ、実は放映権料収入は2018-19シーズンの18億6400万ユーロ(約2789億6300万円)をピークに横這いで、やや下がっている。海外販売分は2015-16シーズンには頭打ちになり、以降の上昇分は国内販売分が賄っている。かつて海外分と国内分は金額ベースで半々くらいだったが、現在、海外分は4割を切っている。
有料チャンネルの契約料が年々値上げされるも、独占市場ゆえに文句が言えない状態にある国内。一方、既存の市場からは悲鳴が上がっており、増収には新規市場の開拓しかない状態にある海外……。
メッシもロナウドもスペインを離れ、有望な若手も監督もプレミアリーグに買われ続けている状態で、放送コンテンツとしての魅力にも、コンペティション上の競争力にも陰りが見える。そんな中で円安も逆風になって、企業として総合的に判断した上での今回の決定になったのだろう。
WOWOWの撤退は、明るくないスペインサッカー界の先行きの象徴であると思う。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。