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“対ミラノダービー用決戦兵器”チャルハノール。“pazza”を体現する男がインテリスタに愛されるまで

2023.05.16

今季のCL準決勝では“ミラノダービー”が実現中。第1レグで宿敵ミランを0-2で撃破したインテルが、09-10シーズン以来となる決勝進出に王手をかけている。このミラノの両雄同士が激突する一戦で因縁が深いのは、2021年夏に“ロッソネロ”(赤と黒)から“ネッラズーリ”(黒と青)のシャツに袖を通したトルコ代表MFハカン・チャルハノールだ。“禁断の移籍”を果たした当時から現在に至るまでの過程をインテリスタの白面(@Hakumen9b)さんが振り返る。

 CL準決勝、ACミランとの通称「ミランダービー」第2レグが、いよいよ目前に迫っている。第1レグの内容・結果と現在のチーム状態、どこを見ても下馬評ではインテル有利との見方が大半だが、ミランは第1レグを負傷で欠場したラファエル・レオンがスタメンに復帰する見込みだ。今季の公式戦において、彼がミランのスタメンに名を連ねた場合、チームは実に5割以上の勝率を誇るという。迫る第2レグは第1レグとはまったく異なる試合になることは、誰もが感じていることだろう。

 今季の命運のみならず、互いの歴史を懸けたこの一戦を前に、「試合のキーマンになるのは誰か」というテーマについて、フットボリスタ編集部と随分話し合った。

 ロメル・ルカクの抜けた穴を見事に埋め、先日の第1レグでも、強烈な先制点を叩き込んだエディン・ジェコか。

 加入直後からその戦術眼をもって、瞬く間に存在感を発揮し、今やチームにとって外すことのできない1人となったヘンリク・ムヒタリアンか。

CL準決勝第1レグ「ミラノダービー」で重要な先制点をマークしたエディン・ジェコ

 今季最大のサプライズにして、シモーネ・インテルにおける戦術上のキーマン、欧州屈指のWBへと成長したフェデリコ・ディマルコか。今のチーム状況を考えれば、いっそ全員が候補に挙がり得るのが正直なところである。
 
 悩みに悩んだが、その中でようやく1人、候補を絞り込んだ。現在のチームにあって、他の選手とは異なる文脈をもち、特別な感情をもってこのダービーに臨むであろう男、ハカン・チャルハノールその人である。

 彼のカルチョにおけるキャリアには、2つの大きな分岐点があったように思う。1つは一昨夏、ミランからの『禁断の移籍』を経てインテルにやって来た時のこと。もう1つは昨冬以降、チーム事情から未知のポジションとタスクを要求されることになった際、見事に指揮官の期待に応え、チームの支柱となったことだ。

 直近のリーグ戦、サッスオーロとの試合(5月14日)は、チームの戦いをニコロ・バレッラとともにベンチから見守った。ミラノダービー第2レグで、スタメンを任されることは、ほぼ確実になったと言っていい。

 今回はインテル加入直後から、今日までの歩みを振り返りながら、彼や彼を見守る我々が、この一戦に賭ける想いについて考えてみる。

困惑>>期待。急転直下と電光石火のインテル加入劇

 チャルハノールは、これまでのキャリアやネームバリューとは裏腹に、決して「多くの期待を背負って」インテルに加入したわけではなかった。複数の偶然が重なり合った末、数奇な運命に引き寄せられ、急転直下で青と黒のユニフォームを纏うことになった選手である。

 ミランとの4年契約が切れる2年前の夏、彼の立場は宙に浮いた状態だった。メディアの報道を信じるなら、年俸400万ユーロを上限として提示していたミランに対し、選手側が年俸600万ユーロを要求していたからと言われるが、真相は定かではない。

 確かなことは1つ。チャルハノールがミランで見せてきたパフォーマンスが、要求年俸に釣り合うものではないと、複数の欧州トップクラブから判断されていたということだ。

 ミラン在籍時は親交が深かったというズラタン・イブラヒモビッチの証言は、その背景を端的に物語る。イブラは著書『アドレナリン』の中で、元同僚が決断した禁断の移籍について、赤裸々に自身の考えを吐露している。

 「こう言ってはいいのかはわからないが、チャルハノールはある悲劇的な状況から恩恵を受けた。(中略)その(クリスティアン・エリクセンが心停止で倒れた)結果、インテルは同じポジションの選手が必要となり、ハカンに扉が開いたわけだ。その前には、インテルからも他のクラブからも彼へのオファーはなかった」と語っている。

 ミランへの貢献について感謝の言葉も述べてはいたものの、その後の彼の行動はチャルハノールへの失望と怒りを隠さないものとなり、以後両者の関係は緊張感を伴うものとなっていく。

 イブラの語ったこの一節は、おそらく事実である。理由は2つ。1つはミランのフロントが一向にオファーを引き上げず、メルカート初期から大々的な代役探しに走るわけでもなく、チャルハノール側の妥協を待ち続けていたことだ。あれだけ強気に選手の妥協ありきのメルカートを展開できたのは、イブラの言葉の信憑性を高める、極めて有力な状況証拠であろう。

 インテリスタにとっても、チャルハノールの加入は青天の霹靂だった。しかも、諸手を挙げての歓迎からは程遠い、「まさか加入してくるとは……」という、困惑>>期待という状況だったと感じている。

 無理もない。当時のインテルは11年ぶりのスクデット獲得直後ながら、“pazza”(クレイジー)の名に恥じない大きな混乱の中にあったからだ。

 当時話題となった“事件”は数え切れないほどあるが、その中でも極めて影響が大きい、ネガティブな話題は3つあった。1つ目はまず、指揮官アントニオ・コンテが電撃辞任を敢行したことだ。

 背景にあったのはオーナーの蘇寧グループがコロナ禍で抱えた巨額の負債による、チームの方針転換が原因であったと言われる。実際、スクデット獲得の立役者の一人であるアクラフ・ハキミを推定6000万ユーロ超でパリSGに売却したにも関わらず、まだ複数の主力売却が必要と言われる有様だったのだ。

 このコンテの退団を受け、ジュゼッペ・マロッタを始めとしたフロント陣は迅速な動きを見せる。後釜にラツィオと契約延長寸前であったシモーネ・インザーギを“強奪”に成功したのだ(当然ラツィオ会長、クラウディオ・ロティートは激怒したという)。新たな体制の下、連覇に向けてどうハキミの穴を埋めるのか、スポーツメディアは喜々として有象無象を書き連ねたものである。

 そんな中で2つ目の事件、先のエリクセンの心停止である。この衝撃はあまりに大きかった。2020年の冬、鳴り物入りで加入した際の期待とは裏腹に、1年近く定位置を掴めていなかったエリクセン。そんな彼が加入2年目後半にして、とうとう本領を発揮し始めていた矢先の出来事だったからだ。

 コンテが去り、ハキミは抜けてしまった。しかしセンターラインには、カルチョ随一のメンバーがそろっている――そんなインテリスタの自信を根底から覆すような、大事件である。イタリアでは心臓に除細動器を付けてのプレーが認められていないため、エリクセンがピッチに戻ることは叶わないことを、関係者もファンも瞬時に悟ったわけだ。

 エリクセンが倒れた直後、マロッタ達の動きは素早かった。エリクセンが倒れたEURO2020、フィンランド戦が6月12日、チャルハノールのインテル加入が発表されたのが6月23日であるから、まさに電光石火の出来事であった。関係者のショックや失望は、ファンである我われのそれと比べても、遥かに大きなものだったと推察する。だが、そうした感情を脇に追いやり、やるべき仕事をきっちりこなすそのプロ意識の高さに、当時フロントには大きな敬意を抱いたものである。

 こうしてミラニスタにとっても、インテリスタにとっても、まさかの展開でインテル加入を果たしたチャルハノール。スクデットの歓喜に浸る充分な合間も無く、なんとか気分を持ち直して彼らの歩みを見守ろうとしていた矢先、第3の事件である、ルカクのチェルシー移籍が成立する。

 これはこの夏、インテルのみならず欧州のメルカート全体を見渡しても、最も大きな移籍の1つとなった。同時に、インテルの混乱は頂点に達した。スクデット獲得における立役者達が、片手では数え切れない人数で、同時にチームを離れることとなったわけだからだ。チャルハノールにとっても、一気に状況は厳しくなったと言える。エリクセンの代役としてだけではなく、新加入組全員で、最大の得点源であったルカクの大穴を埋めねばならない。チャルハノールは加入直後から、自身の攻撃的資質を120%発揮するよう求められる立場に立たされたのである。

ミラン在籍時は赤黒のユニフォームに袖を通し「ミラノダービー」に出場していたハカン・チャルハノール

イブラにも気圧されない泰然自若なパーソナリティ

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インテルハカン・チャルハノールミラン

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白面

集団心理とか、意思決定のノウハウ研究とかしています。昔はコミケで「長友志」とか出してました。インテルの長所も短所も愛でて13年、今のノルマは家探しです。

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