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言葉を使わない保育の考え方と同じ。エコロジカル・アプローチの「日本化」の可能性

2023.05.11

短期集中連載「私とエコロジカル・アプローチ」第4回

好評発売中の『エコロジカル・アプローチ 「教える」と「学ぶ」の価値観が劇的に変わる新しい運動学習の理論と実践』は、欧米で急速に広がる「エコロジカル・アプローチ」とその実践メソッド「制約主導アプローチ」の解説書だ。

エコロジカル・アプローチは様々な分野に応用可能な理論で、異なる角度から掘り下げることで違った発見があるはずだ。第4回は、コスタリカでプロ選手としてプレーした経験を持ち、現在は福岡県の「エリア伊都」ジュニアユースの監督を務める傍ら「エリア伊都グローバル保育園」園長も兼任する有坂哲さんに、「エコロジカル・アプローチに感じた可能性」というテーマで書評をお願いした。

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 大袈裟でなく、身体中に衝撃が走ったのです。スゴイものに出会ってしまった……と。

 それは、footballista2018年12月号の『「エコロジカル・トレーニング」ムバッペたちを磨き上げた新理論』という記事を読んだ時。

 1つの型に当てはめて行う選手育成ではなくて、選手の持っている特徴がナチュラルに引き出されていく。そこからチームとしての型も立ち上がってくる。その「変幻自在な育成」というイメージに心震えてしまったのでした。

 あの時の衝撃から約3年。本書の著者である植田文也さんがポルトガルから本格的に帰国してからエコロジカル・アプローチの内容を詳しく知ることができ、この理論が持つ可能性を益々感じられるようになってきています。

ブラジル4部リーグの記憶

 自分自身の経験とリンクすることも多く、本書の第4章「ストリートサッカーは自然な制約主導アプローチである」を読んだ時には、ブラジルでの記憶が蘇ってきました。

 サンパウロ州4部リーグのチームでの紅白戦、週末の試合に向けてスタジアムの芝生のコートで行われました。芝生といっても、Jリーグのような長さの整った綺麗な芝とは程遠い、土が剥き出しになっている箇所もあるデコボコなコート。

 試合が始まって間もなく、僕がマッチアップしていた選手に向けてグランダーのパスが入りました。すると、その選手の手前でボールが突然イレギュラー。これはチャンスと相手の懐に飛び込んで、いざボールを奪取に。ところがその瞬間、浮いたボールを先に触られ、見事に頭上を抜かれてしまいました。

 驚きました。といっても、それは頭上を抜くアイディアにではなく、その選手の一連の動きがあまりにスムーズだったことに。

 技術的にはそこまで難しいものではないし、日本でも同じように抜かれてしまったこともあります。ただ日本では、イレギュラーした時点で驚きから身体が一瞬こわばって停止、そこから持ち直して頭上を抜くアクションになっていたなと。このブラジル人選手に抜かれて驚いたのは、バウンドが目の前で変わってもまったく慌てることなく、身体に力が入ることもなく、ごく自然に頭上を抜くプレーに移行していたこと。

 そこには大きな違いが存在していると思うのです。

 身体を意識的に動かしたのか。

 身体が勝手に反応したのか。

 予期せぬ状況で修正したのか。

 目の前の状況にただ対応したのか。

 本書の表現を借りると

 「自己組織化」された身体なのか。

 「規定的組織化」された身体なのか。……

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エコロジカル・アプローチ

Profile

有坂 哲

1975年、東京生まれ。拓殖大学中退後ブラジルにサッカー留学。帰国後「都立石神井高校」サッカー部ヘッドコーチ。26歳で選手として再びチャレンジするため飛び込みでコスタリカへ。2部リーグでプレー。帰国後は再び高校の指導者と、「Futbol&Cafe mf」ショップディレクターを務め、2017年に福岡県の糸島に移住。現在は「エリア伊都」ジュニアユース監督と「エリア伊都グローバル保育園」を兼任。note: https://note.com/tetsupuravida

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