福岡戦のハットトリックをはじめ今シーズンのリーグ戦12試合で6ゴールを記録し、大ブレイクを果たしたアルビレックス新潟の伊藤涼太郎。なぜ、彼はJ1の舞台で眩い輝きを放っているのか。日本代表入りも期待される25歳の技術的な特徴を西部謙司が考察する。
ボールを止める前に次のプレーに入る
今季のJ1で注目の選手といえばアルビレックス新潟の伊藤涼太郎だろう。サッカーの面白さをわかりやすく体現している典型的な「10番」タイプである。
技術とセンスが図抜けていて、意外性のあるプレーは観客を魅了する。センスに関してはなかなか説明が難しいので後回しにさせてもらって、まずは伊藤の技術的な特徴から見ていきたい。
ボールタッチの上手さは言うまでもない。特徴的なのはパスを受ける時の姿勢だ。ボールに触れる瞬間には、すでに次のプレーが始まっている。
ボールを止める時は、ボールの模様がはっきり見えるぐらい静止させる。さらにドリブルでもパスでも何でもできる場所に止める。この2つがポイントだが、伊藤の場合は止めてから次のプレーを始めるのではなく、止める前から次のプレーに入っていて、例えば右前へ運ぶなら体がすでに右前へ移動する姿勢で止めている。
何でもできる場所に止めてから次のプレーに移行できれば、それだけでもけっこう速いわけだが、伊藤は次のプレーに移行しながら止めているのでさらにワンテンポ速い。しかし、決め打ちでプレーしているわけではなく、右前へ移動する姿勢でもボールタッチの瞬間に左へ移動方向を変えるなど変化ができる。ターンする体勢からワンタッチパスに切り替えるのは、よく行われているプレーだ。相手と状況次第で変化する。
つまり、何でもできる場所にボールを止めるのではなく、何でもできる体勢でボールを止めている。そこは他の選手との違いだ。これが独特のリズム感を生み出している。
パスもシュートも同じ蹴り方
ボールコントロールやドリブルの上手い選手は見ていて楽しく、ときに芸術的でさえあるが、結果を出すのはキックだ。パスでもシュートでも、プレーの仕上げになるキックの質が高くなければプレーは成功しない。
キックは選手の個性が出る技術だ。ボールの中心を叩くのが基本だが、足のどこにどういう振り方で当てるかは十人十色。伊藤も独自の形がある。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。