今シーズンから女子セリエAのローマでプレーしている日本女子代表DF南萌華が、セリエA優勝を成し遂げ確かな足跡を刻んだ。自身初となる国外挑戦に身を投じた理由や戦いぶり、奮闘の中で手にした成長のてごたえについて、シーズン中にオンラインで取材をする機会のあった舩木渉が綴る。
イタリアでは今季、男女ともに“新王者”が誕生した。男子セリエAではナポリが33年ぶり3度目の優勝を果たし、女子セリエAではローマが5連覇中のユベントスを振り切って初優勝を成し遂げた。
2003年からセリエAに参戦していたレス・ローマのライセンスを引き継ぐ形で2018年に設立されたローマの女子チームは、活動初年度からセリエA参戦初年度から4位、4位、5位、2位と徐々に力をつけ、創設5年目でのリーグ初制覇となった。そして、なでしこジャパンにも選ばれているDF南萌華が優勝の立役者の1人となった。ローマ所属の日本人選手がスクデットを獲得するのは、2000-01シーズンの中田英寿以来だ。
南は2022年7月、三菱重工浦和レッズレディースから「これからの女子サッカーの未来のために」という想いを背負って海を渡った。ローマとは2年契約を結び、FIFA女子W杯本大会に向かう重要なシーズンをイタリアで過ごすという大きな決断を下した。
しかし、スタートでいきなりつまずきかけた。シーズン最初の公式戦となったUEFA女子チャンピオンズリーグ(CL)予選のグラスゴー・シティ戦で左CBとして先発起用された南は、21分にオウンゴールを献上。チームが勝利して事なきを得たが、危うくCL本戦のチャンスを潰しかねず、肝を冷やしたことだろう。
結果的にクラブ史上初のCL本戦出場権をつかみ取ったローマは、堂々たる戦いぶりでグループBを2位突破。準々決勝ではバルセロナに2戦合計1-6という大差で敗れたものの、南は主軸としてベスト8入りに大きく貢献した。なお、今季のCLでローマが敗れたバルセロナとボルフスブルクは、そろって決勝に進出している。
国内では昨年11月にスーペルコッパ・イタリアーナを制し、リーグ戦は3試合を残して優勝。6月4日に行われるコッパ・イタリア決勝でユベントスに勝利すれば、国内3冠を達成できる。今季のローマの強さは圧倒的で、南はずっとそのチームの中心にいた。
チーム事情を受けて開いた新境地
「(日本でプレーしていた頃と)対戦相手が違うだけで伸ばせているところもありますし、プレーの幅はすごく広がっているなと感じます」
今年1月下旬、オンラインで取材に応じた南は笑顔でそう語った。言葉の端々からイタリアでの充実ぶりが感じられ、セリエAやCLでの経験を通してよりたくましく成長しているのは間違いない。
イタリアで新たな一面も見られるようになった。4バックと3バックを併用していたローマで、シーズン序盤は主に左CBとしてピッチに立っていた。だが、DFラインに負傷離脱者などが出たことで右SBや左SBでも起用され、後半戦はほとんどの試合で左SBとして先発出場している。
「SBの選手がケガをしてしまったこともあって、『CBの選手でSBを補えるのはモエしかいない』と監督に言われてやっているんです」
南は「正直、個人的にはCBをやりたいなという気持ちもある」というが、自らがSBとして起用される理由に理解を示しつつ、前向きに捉えて新たなチャレンジを成長のチャンスと捉えるようになった。……
Profile
舩木 渉
1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。