本来の仕事である対人守備に加え、オーバーラップやアンダーラップ(インナーラップ)のような攻撃参加から「偽サイドバック」とも形容される中盤へのサポートまで、マルチタスク化が進んでいるSB。おかげでMFがコンバートされることも珍しくない中、CBをSB起用するビッグクラブが現れているのはなぜか?その理由を『フットボリスタ第96号』でウイング興亡史を紐解いてくれた西部謙司氏が解説する。
強力なウイングへの対抗策として
CBのプレーヤーをSBで起用する事例がビッグクラブで目立ってきている。マンチェスター・シティのマヌエル・アカンジ、ジョン・ストーンズ。アーセナルのベン・ホワイトや冨安健洋などがそうだ。SBが長身でフィジカルに優れたタイプということはこれまでにもあったが、本職のCBをサイドに起用するのはあまりなかったかもしれない。
その背景として考えられるのはウイングプレーヤーの台頭だ。
トップレベルで強力なウイングを配するチームが増加している。アーセナルのブカヨ・サカとガブリエル・マルチネッリ、シティのジャック・グリーリッシュ、リヤド・マレズ、ベルナルド・シルバ、マンチェスター・ユナイテッドならアントニーとマーカス・ラッシュフォード。レアル・マドリーにはビニシウス・ジュニオール、ナポリにクビチャ・クバラツヘリア、バイエルン・ミュンヘンのキングスレイ・コマン……突破力のあるウイングを攻撃の主軸に据えるクラブは多い。
CBをSBとして起用するのは、こうしたウイングに対抗するためと考えられる。
プレミアリーグ第33節のシティ対アーセナル(4-1)、シティはSBにカイル・ウォーカーとアカンジを起用していた。アーセナルの両翼(サカ、マルチネッリ)への対抗策だ。右のウォーカーはSBが本職だが対人能力には定評があり、守備力の高い個でウイングに対抗しようという意図が明確に見て取れる。
ラ・リーガ第26節、バルセロナ対レアル・マドリーではレアルのビニシウスに対する右SBに本職CBのロナルド・アラウホを起用。この采配が功を奏し、2-1でバルサが競り勝った。
相手の攻撃のキープレーヤーに守備力のあるDFをぶつける。シティのウォーカーのように1対1に強いSBがいるならそのままで良いが、そうでないなら守備力の高いDFを対面のウイングに当てたい。そうなるとCBをSBとして起用するというアイデアになってくるわけだ。
守備面安定の代償をどう受け入れるか
CBのSB起用のメリットは高い守備力にある。相手のウイングとの相性があるので、必ずしもCBをSBとして起用するのが正解とはならないが、より守備力の高い選手で相手のウイングを抑え込むことを期待しているわけだ。
逆にデメリットとして考えられるのは攻撃力の低下だ。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。