【インタビュー後編】ゲームモデルの「先」にある生存戦略。ガイナーレ鳥取が今やるべきこと
“新卒監督”として福山シティFCで3シーズン指揮を執り、広島県1部リーグ(6部相当)から中国サッカーリーグ(5部相当)に昇格させた小谷野拓夢が、ガイナーレ鳥取の強化育成部長に就任した。天皇杯でJクラブ相手に堂々たる戦いを見せた青年監督は、なぜ現場からフロントに新天地を求めたのか。
後編ではゲームモデル導入の「先」にある運用方法、そしてグローバル時代の移籍戦略について未来への構想を聞いた。
サッカークラブの「ナレッジ」とは何なのか?
――サッカークラブのナレッジとは具体的にどういうものでしょう?
「サッカークラブがナレッジマネジメントをできていないと感じるのは、例えば日本代表にまでなった選手が過去にどういう練習をしていたのか、どういうゲームモデルで過ごしてきたのかが、きちんとデータ化されていないことですね。成功した選手の育成過程は大きな財産なので、クラブとして持っておきたいです。その起点になるのがゲームモデルだと思うので、作って終わりではなく、そこからの繋がりを大事にしたいです」
――そうしたアカデミーでのデータのアーカイブ化もやりたいということでしょうか?
「そうですね。理想を言うならトップチーム、アカデミーの垣根を越えてお互いの指導者が学び合える環境作りをしたいです。そのためには情報をオープンにすることが大事で、例えばトップチームの試合や練習の映像をアカデミーのスタッフが見られるようにしたり、逆にアカデミーのスタッフがトップチームの試合や練習を見られるようにする。そういう仕組みをプラットフォーム化して一元管理できる取り組みは面白いと思います。例えばアカデミーがこういうゲームモデルでチームを構築していることについて、U-15やU-13など複数のカテゴリーのスタッフが議論する場を設けてもいいですね」
――アカデミーダイレクターと小谷野さんが話し合って今後のアカデミーの方向性を決めることになるんですよね。
「そうなると思います」
――ゲームモデルを作るとしたら、小谷野さんが主導することになりそうですか?
「福山シティでの経験もありますし、僕がいろんなクラブ関係者にヒアリングしながら作っていくことになると思います」
――面白いですね。強化の責任者がゲームモデル作りを主導するのはあまり例がないかもしれません。
「福山シティでも似たようなことはやっていて、何もないゼロのところからゲームモデルを作って、それをトレーニングで浸透させて、試合で実現に近づける。そして、次のシーズンに向けてゲームモデルに合う選手をリストアップして、トレーニングと試合を繰り返す。立場は監督でしたけど、福山シティでは選手獲得にも関わっていました。3年でどこまでゲームモデル作りのサイクルを進められるのかは学べたので、それをさらに上のカテゴリーの鳥取でやるというイメージですね」
――これからクラブ内で勉強会を開いたりなども考えていたりしますか?
「やれたらいいなとは思います。まず僕自身がユースやジュニアユースの練習を見る機会を増やしていて、もちろんトップチームの練習も毎日見ています。その延長線上で勉強会や指導者同士の交流も考えていきたいです。ゲームモデルはあくまでコミュニケーションの起点でしかないですからね。そこからどうトレーニングに落とし込んでいくのかを議論できたらいいと思っています」
――ご自身のnoteでもエコロジカル・アプローチについて言及されていましたけど、アカデミーで取り入れる予定はありますか?
「はい。あるコーチはエコロジカル・アプローチに興味を持ってくれて、僕がそのコーチに教えてさっそくユースで実践してくれました。そういったコミュニケーションをもっと取りたいと考えています。とはいえ、無理やり僕の考えを押し付けるのは違いますし、お互いに学び合ってより良いものが作れればと願っています。今クラブにいる人が大事にしてきたものをベースにしながら、少しずつやっていけたらと思っています」
グローバル時代の移籍戦略
――具体的な仕事としては、新チームの編成からすでに関わっているんでしょうか?……
Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。