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川辺、瀬古、原の日本人3選手を獲得した背景。スイスの名門グラスホッパーとウルブスの“クリエイティブ”な関係性

2023.04.29

日本人選手の欧州挑戦が加速する中、その移籍先が多様化している。人気なのは計13人がプレーするベルギーリーグや、5人が所属するセルティックだが、スイスのグラスホッパー・チューリッヒにも川辺駿、瀬古歩夢、原輝綺の3人が在籍中。復活を図る名門が日本人選手を立て続けに獲得している背景と、そのウルブスとの“クリエイティブ”な関係性を関係者への取材をもとに中野吉之伴氏が伝える。

 スイス・スーパーリーグのグラスホッパー・チューリッヒは、国内最多となる27回の優勝を誇る名門クラブだ。ただ、最後に優勝を果たしたのが2002-03シーズンとすでに20年前になる。2018-2019シーズンには10チーム中10位の最下位となってしまい、1950-1951シーズン以来となる2部降格を経験。あまりのふがいなさにウルトラスの怒りが限界を超えてしまった試合もあった。

 その2018-19シーズンの33節ルッツェルン戦では、0-4という一方的な試合展開にウルトラスがついにキレた。選手に「クラブのユニフォームを着る資格がない」と脱ぐことを強要し、それが原因で試合中止となってしまうというあまりにショッキングな出来事が起こる。このニュースはスイス国内だけではなくヨーロッパ中を駆け回り、名門の行く末を心配する声も少なくなかった。

 翌季に2部での戦いを3位で終えたグラスホッパーは1年での復帰に失敗したものの、続く2020-2021シーズンに優勝を成し遂げ、ようやく1部へと返り咲いた。迎えた2021-2022シーズンは川辺駿、瀬古歩夢らの補強も当たり無事に残留を成し遂げている。

「選手の行き来をアクティブにする」ウルブスとの提携

 その背景にはクラブが手にした新しい繋がりも影響を及ぼしている。2020年4月にグラスホッパーは香港の企業『Champion Union』による買収成立を発表。この同社会長ジェニー・ワンは、“ウルブス”の愛称で親しまれるウォルバーハンプトン(プレミアリーグ)を所有する復星国際会長、郭広昌の妻。さっそくグラスホッパー会長に元ウルブス役員のスカイ・サンが就任するなど、両クラブの関係性が強化された。

 筆者も昨季、当時のグラスホッパーSDで元ナイジェリア代表のセイ・オロフィンジャナに直接話をうかがったことがある。……

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Profile

中野 吉之伴

1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。

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