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「三笘は“ジンガ”を持っている」――横浜F・マリノスを牽引するエウベルが語る「ウイング論」【現代ウイング考察】

2023.04.27

4月12日発売の『フットボリスタ2023年5月号』は、現代サッカーにおいて復権しつつある「ウイング」を大特集。その連動企画としてWEBではJリーグの注目株を含め、サイドを主戦場に活躍する国内外の選手にスポットを当てる。第2回は、昨シーズンのJリーグベストイレブンに輝いた横浜F・マリノスのエウベルが登場。本人に時間を取ってもらい、「ウイング論」について聞いた。

 フットボリスタ最新号では「現代ウイング考察」として、欧米各国で活躍する注目の選手やウイングというポジションに関する最新理論が特集されている。示唆に富み、学びの多い記事ばかりで、改めてサッカーの奥深さを感じられる一冊だ。

 では、現在「Jリーグ最強のウイング」は誰だろうか? 最初に頭に浮かんだのは、横浜F・マリノスで活躍するエウベルだった。

 昨季はF・マリノスのJ1制覇に大きく貢献し、Jリーグベストイレブンに初めて選ばれた。とりわけ後半戦の活躍は目覚ましく、今季も4月25日時点でリーグ戦9試合出場3得点4アシストと好調を維持。正直なところ、「エウベルのおかげで勝てた」と言えるような試合は少なくない。

 「来日3年目ですけど、今も毎日『Jリーグは競争の激しいリーグだ』と肌で感じています。簡単な試合は1つもなく、毎試合、毎試合、僕のベストを尽くさないとチームの力になれないということが日本での最大の学びです。

昨年の終盤は自分の特徴やプレーがチームの大きな力になれたことが嬉しかった。学んできたことをピッチ上で活かすには、これまで通りのプレーを続けることが大事だと思います。今年も僕のベストを尽くし、チームにとって最も効果的なプレーをして、みんなと一丸になって戦い、連覇を目指していきたいと思います」

 驚異的な加速力で相手ディフェンスを切り裂くインパクト抜群で爽快なプレーとは裏腹に、普段のエウベルは物静かで多くを語らない。佇まいから謙虚さがにじみ出ていて、いわゆる「ブラジル人選手」のステレオタイプには当てはまらない選手だ。一体どんな人生を歩み、Jリーグでも屈指のウイングにまで成長してきたのだろうか。ここからはF・マリノスで7番を背負う名ウイングが歩んできた道のりや人物像を紐解いていきたい。

ストリートでの遊び+エリート教育の融合

 ジョゼ・エウベル・ピメンテウ・ダ・シウバ。通称“エウベル”は、1992年5月27日生まれの30歳。ブラジル北部アラゴアス州のパッソ・ジ・カラマジビ市という人口1万5000人ほどの小さな街で育った。両親はともに地元の役所で働いていたが、「公務員ではなく、安定していたり、給料が良かったりするわけではない」ため、決して裕福な家庭ではなかった。

 地元を出たのは14歳の時だった。アラゴアス州から遠く離れた中部ミナスジェイラス州の強豪クルゼイロのアカデミーに入団することになり、親元を離れて寮生活に。かつて“フェノーメノ”ロナウドを輩出したビッグクラブで、プロサッカー選手への一歩を踏み出すこととなった。入団当時のポジションはトップ下だったという。

 それまでストリートで技を磨いてきたエウベル少年は、育成の名門でエリート教育を施されて徐々にプレースタイルを洗練させていく。

 「小さい頃は地元の土のグラウンドでサッカーをしていて、遊びの中で自由にプレーしていました。もちろんドリブルもたくさんしました。その後に入ったクルゼイロはブラジル国内でも偉大なアカデミーの1つなので、エリート軍団でした。そこでは、ただドリブルをして、股の間を通して加速するのではなく、ゴールに直結する効果的なドリブルを教わりました」

 15歳頃からはプロのトップチームで練習し、週末は自分の年代のチームで試合に出場するという日々を送るようになる。才能豊かな選手たちがプロになるために鎬を削る環境で、生き残るためには「効果的なプレー」をしなければならないと学んだ。

 「素晴らしい能力を持っていながら、まったく花が咲かずトップチームに昇格できなかった選手の姿を近くでたくさん見てきました。クルゼイロのアカデミーはブラジルの中でもトップクラスなので、やっぱり上手いだけでは生き残れない。

そんな中で模範としていた選手が何人かいました。僕の特徴に当てはまる選手、当時であればロビーニョやロナウジーニョ・ガウショにたくさんのインスピレーションを受けましたね。彼らに少しでも近づければトップチームに昇格できるのではないかと、プレーを参考にしていました」

2017年まで母国ブラジルのクルゼイロでプレーしていたエウベル(左)(Photo: Getty Images)

 「ビッグクラブに入るといろいろなプレッシャーがあります。コーチからもそうですし、14歳のチームとはいえサポーターもいますし、そういった多方面からのプレッシャーがあると、どんどん効果的なプレーを見せていかないといけないというのが身についていきます。

 もちろん土のグラウンドやストリートで遊びのサッカーをするなら、ドリブルで3人くらい抜いてゴールを決めたり、股の間を通したりすることで盛り上がります。でも、14歳で大きな大会に出るとなると、多方面からいろいろなことを求められるので、子どもでも効果的にゴールに直結するようなプレーをしていかなければいけないという考えを持つようになるんです。そして、今もそういう考えでプレーしています」……

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J1リーグエウベル三笘薫横浜F・マリノス

Profile

舩木 渉

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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