ザスパクサツ群馬が面白い。J2第11節終了時点での順位は7位。シーズン前は降格候補に名前が挙がることも多かったが、良い意味で周囲の予想を裏切る快進撃を続けている。そんな上州の雄を支えているのは“訳アリ優良物件”。長倉幹樹、佐藤亮、天笠泰輝、岡本一真の若獅子4人だ。では、彼らはどのように群馬へと加わり、今の立ち位置を築いてきたのか。クラブの歴史を知り尽くしている伊藤寿学の言葉に、耳を傾けよう。
この進撃を、だれが予想しただろうか。万年降格候補のザスパクサツ群馬が開幕11節を終えた時点で7位につけている。6節では怒涛の攻撃サッカーで3ゴールを奪って、J1降格クラブの清水エスパルスを3対1で粉砕。それが呼び水となり、清水のゼ・リカルド監督が解任された。群馬の下克上を支えているのは、“訳アリ優良物件”の若獅子4人だ。
今季のJ2はJ1降格クラブの清水、ジュビロ磐田がシーズン序盤に苦戦している中で、青森山田高校の前指揮官・黒田剛監督率いるFC町田ゼルビアが首位を死守。大分トリニータ、V・ファーレン長崎、ヴァンフォーレ甲府が追走する展開となっている。J3昇格組の藤枝MYFCの躍進も話題だが、降格候補筆頭だった群馬が、3位長崎に4位甲府と勝点2差で7位に位置しているのだ。
開幕前、いくつかのサッカー専門誌などで識者たちがこぞって、群馬の降格圏を予想した。それもそのはず、群馬は、2020年は20位、2021年は18位、2022年は20位と、過去3シーズンにわたり、降格圏の一つ上の順位でぎりぎりJ2残留を果たしてきた(2020年はコロナ禍で降格なし)。元日本代表MF細貝萌が主将をつとめるチームだが、今季も「大型補強」はできずに、抜けた穴を埋める「最小限補充」に留まった。
チーム目標は「勝点50、16位以上」だが、現実目標はJ2残留であることは間違いなかった。群馬取材歴20年の番記者である筆者でさえ、「今季は、かなり厳しい。最悪の事態(J3降格)も止むなし」と考えていた。J3降格は、ライター生命の存続危機に関わる。大きな不安を抱えての2023シーズン開幕だった。
そんな降格候補のチームが、快進撃を起こしている。チームを率いるのは、分析担当をしながら成り上がった元浦和レッズの指揮官で、「組長」の異名を持つ大槻毅監督だ。就任1年目の昨季はシーズン序盤に勝点を積み上げたが、机上の分析にこだわるあまりシーズン中盤以降に失速。最終的には守備一辺倒のサッカーで20位に滑り込み、かろうじてJ2残留を果たした。2年目の今季は、守備戦術に改善を加えた上に、J2最低規模の強化予算を逆手にとって若手中心のメンバー構成で果敢なチャレンジに出た。そして、雑草の魂を宿した4人の若武者たちが頭角を現してきた。
ひらりと相手をかわすシャドーストライカー長倉幹樹
攻撃の核となっているのは、アタッカー長倉幹樹だ。浦和ユースから順天堂大へ進学。昨年春(2022年春)の大学卒業時にJクラブ入りを目指したが、あちこちのクラブから門前払いを受けて関東1部・東京ユナイテッドFCに加入した。そして、スポーツジムでアルバイトをしながら関東リーグ開幕を待った。
南葛SCなど話題性のあるクラブがJFL昇格を争う関東1部リーグのピッチに立った長倉は、前期だけで8ゴールを決めて得点王争いのトップを快走。長倉の出色のパフォーマンスを見た代理人が群馬に売り込みをかけて、昨季夏に関東1部からJ2群馬への電撃移籍が決まった。
突如、群馬に現れた無名のアタッカーは、一瞬のスピードと優れたバランス感覚を活かしたターンで相手DFをぶっちぎるなど片鱗をみせる。そしてデビュー2戦目となったベガルタ仙台戦で決勝ゴールを決めるなど驚きのプレーを連発、6戦2ゴールの結果を残して1年目を終えた。
今オフにJ2仕様のフィジカル強化に取り組むと、今季は開幕からスタメン出場。普段な物静かな性格ながらもピッチ上では自我を発揮。J2の屈強なDFたちを“ひらり”とかわして前を向くと、攻撃の起点としてチームのスイッチ役となっている。リーグ屈指の被ファール数も、警戒されている証。スピート、テクニック、強さ、タフさを備えたマルチストライカーとして一気に評価を高めている。「トップのポジションで起用されているのでもっと多くのゴールに絡まなければいけない。一つでも多くのゴールを決めて、勝利に貢献したい」(長倉)。11節で2ゴールの結果は、飛躍の序章だ。
3ゴール4アシスト、躍進の原動力FW佐藤亮
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Profile
伊藤 寿学
1973年群馬県生まれ。大学卒業後、英国放浪の旅に出掛けて、リバプール・アンフィールドスタジアムの雰囲気に魅了される。帰国後、地元クラブであるザスパクサツ群馬を立ち上げから取材。『エルゴラッソ』群馬担当として取材するほか、有料ファンサイト『群馬サッカーNEWS Gマガ』を運営。著書にザスパクサツ群馬のJ2復帰ストーリーをまとめた『乾坤一擲』(内外出版)、『隠れた野球王国群馬 監督たちの甲子園』(竹書房)、編書に『前育主義』(山田耕介監督著/学研)。