SPECIAL

宮城を“未来のGK大国”に。分け与える男・林彰洋が新天地で担う役割とは

2023.04.28

開幕からリーグ戦フル出場を続けるベガルタ仙台の新守護神・林彰洋。膝のケガもあってここ2年は公式戦から離れていたベテランが、ポジション争いを繰り広げている年下のGKたちに与えている刺激は、とにかく大きいという。さらにその影響力はアカデミーの若き才能たちにも及ぶ。なんと3月にはジュニア、ジュニアユース、ユースのGKを集めて、合同トレーニングを開催したというのだ。35歳の彼が仙台の地で担いたいと願う役割とは。工藤輝央GKコーチの言葉も交えながら、村林いづみがその志に迫る。

与えられたものを仲間に惜しみなく伝える林彰洋

 練習が終わったある日の泉サッカー場。全体トレーニング後にGK林彰洋とDF真瀬拓海が長い時間話し合っていた。膝を突き合わせて意見を交わし、クールダウンのジョギングが始まっても話は続く。ジョギングがウォーキングになってもまだ話していた。身振り手振りを交えて、真瀬に熱く伝え続ける林。必死に受け取ろうとする真瀬。どんなことを話していたのだろうか。

真瀬とジョギングを行う林(Photo: Idumi Murabayashi)

 「彼のストロングを試合でも出せるように、ボールの受け方や考え方、見る場所を意識したらということを伝えていました。GK目線で『こうしたらもっとお前のいいところが生きるんだけどな』ということですね」(林)

 「いろんな経験をされてきた方なので、多くの選手にその経験を還元してくれています。アキさんが話してくれることが、自分たちの成長にとって大事な材料になっていると思うので、整理して自分のプレーに反映させていきたいです」(真瀬)

 練習が次のメニューに切り替わるわずかな時間にも林が仲間に声をかける。こうした様子が今シーズンのピッチのあちこちで見られる。「真瀬だけに限らず、チーム全体として考え方を成熟させられれば、拮抗した試合を勝ちにつなげられるのかなと思います」。こうして林はその時々で仲間に必要なことを伝えている。

 今季、J2のベガルタ仙台に完全移籍加入した林彰洋。J1クラブで259試合出場と豊かな経験を誇る元日本代表GK加入のニュースを仙台サポーターは驚きを持って受け止め、歓迎した。FC東京で過ごした6年間の内、最後の2年は膝の怪我で2度の手術を経験。この間、試合に出場することは叶わなかった。しかし、仙台ではキャンプから大きな存在感を発揮し、開幕からリーグ戦11試合連続で先発出場を続けている。

 「試合に出られるようにと準備してきましたが、2年間試合をやっていなかったことを考えると、一試合一試合やれることに集中して臨みたいと思っています。僕はこのチームを(J1に)上げるために仙台に来ました。勝ち点3を取るためにどうすればいいのか、個人としてというより、チーム全体としてどうしていけばいいのかということを、僕の視点から選手たちにどんどん伝えていきたいと思っています。考え方が向上するだけでチームって一気にガラッと変わります。そういうことをおろそかにしないで、常に吟味しながら取り組んでいければいいですね」

 「成熟」や「還元」、「吟味」。林の近くには、洗練された“大人の言葉”が寄り添う。経験豊かなベテランGKは高い視座を持ち、自らの経験や知恵を仲間に惜しみなく分け与えている。

2023シーズン新加入選手会見でマイクを手に取る林(Photo: Idumi Murabayashi)

工藤GKコーチが認めるスケールの大きさ。『林は誰よりも努力の人』

 195cmの林は大きい。これは決して見た目だけの話ではない。声も、器も、その存在感も。とにかく大きな男だった。

 「一言で言うと、スケールが大きいGKですよね」

 こう話すのは、今季仙台のGKコーチに就任した工藤輝央さんだ。「(林は)経験あるGKですし、その経験をゲームの中で出し、トレーニングでもチームに還元してくれています。彼は若い時から注目されてきたGKです。海外に出て、日本代表選手として活躍してきました。そのスケールの大きさというのは彼にしかないもの」。林は仙台の4人のGKを代表してゴールマウスを守っている。……

残り:2,433文字/全文:4,134文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

J2リーグベガルタ仙台林彰洋

Profile

村林 いづみ

フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。

関連記事

RANKING

関連記事