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ホーランド加入に伴う「オープン化」の功罪と、それを消化するメカニズムの構築。ペップ・シティのチームビルディングを解剖する

2023.04.25

首位をうかがう位置につけているものの、すでに昨シーズンを上回る4敗を喫するなどプレミアリーグでは例年に比べ浮き沈みの大きさを見せている反面準々決勝で難敵バイエルンを退けて大目標であるCL制覇へ向け前進を続け、FAカップでも決勝進出を果たしたマンチェスター・シティ。アーリング・ホーランドをチームに組み込む中でペップ・グアルディオラがチームに施した変化を紐解く。

 2022年の夏は、その選手の去就で持ちきりだった。ドルトムントでは公式戦89試合に出場し、脅威の86得点23アシスト。文句のつけようのない圧倒的な実績を引っ提げた22歳の争奪戦を制したのは、ペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティ。実の父も身につけたそのユニフォームに袖を通すというエモーショナルなストーリーも相まってファンからの期待は大きく、悲願のCL優勝に向けて待望の補強になった。

 シーズンも残りわずかとなったこのタイミングで、あらためてホーランドの補強の意味や今シーズンのペップのテーマ、そして現在はアーセナルの後塵を拝す形となっているプレミアリーグの取りこぼしの原因や、今後の展開について考察してみたい。

 結論から言えば、今シーズンのペップの目論見は「CLに向けたゴール奪取の再設計」と「アンカー役の解放」だろうと思われる。あえて抽象化してみたが、要するに前者は崩しの局面のアップデートであり、後者は主にビルドアップの局面のアップデートと言える。

Park the busへの応手

 ペップシティの抱える課題らしい課題はほとんどないが、よく言われるのは引いた相手を崩し切れずに悪い失い方をしてしまい、それがネガティブトランジションでの被カウンターに繋がっているというものだ。実際、相手にたった2本しかシュートを許さなかったにもかかわらず、そのどちらもを決められ敗北を喫した一昨シーズンのリーズ戦などがその典型であり、豊かなスカッドを持ちながらいまだCLでトロフィーを掲げられていないことの直接的な原因にもなっている。

リーズ戦のハイライト動画

 この問題の本質は、「シュート、もしくは得点で攻撃を終えることができない」「相手に前向きでボールを奪われ、カウンターへの移行をスムーズにさせてしまっている」「トランジション時のゲーゲンプレスのかかり方が甘い」などの原因が絡み合っていることにあると言える。その中で最も影響が支配的であり、かつ選手の質に最も依存する1つ目の原因の解決策となったのがホーランドの獲得だろう。

 今シーズンを通して、ホーランドのタスクは一貫している。それはライン上で相手の最終ラインと駆け引きをし、裏のスペースへダイレクトにアタックするというものだ。もちろん、ビルドアップでの循環が滞っているような場合には手前に顔を出して出口となる動きを見せるものの、もはやこの動きは現代のCF像の一部となっており、偽9番と称するまでもない。つまり従来シティが好んでCFに割り振っていた偽9番のタスクというより、純正9番として深さを取りつつ裏と駆け引きするタスクを背負わせている。

 これによりもたらされる最大のメリットは、「崩し始めの位置を下げることができる」ことだろう。

 ペップが志向するポジショナルプレーの最も基本的な描像は、散開した静的配置でゆっくりとボールを前進させることであり、危険なスペースに配置した味方を気にさせて相手を押し込んでいく。そのためには出し手の安定が不可欠であり、配置をずらしたビルドアップの設計や個人戦術の仕込みなどにより、常にホルダーが自分のタイミングで駆け引きをできる状況を作り出す。

 しかしながら押し込むことで味方の距離感を整えたまま相手陣内でプレーできることと引き換えに、ゴールにたどり着くまでに越えなくてはならない敵の数も増えてしまい、長短のパスを織り交ぜて陣形を揺さぶることで決定機を作りつつも、一発勝負のカップ戦では分が悪くなってしまうこともある。……

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アーリング・ホーランドジョセップ・グアルディオラマンチェスター・シティ

Profile

高口 英成

2002年生まれ。東京大学工学部所属。東京大学ア式蹴球部で2年テクニカルスタッフとして活動したのち、エリース東京のFCのテクニカルコーチに就任。ア式4年目はヘッドコーチも兼任していた。

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