ユリアン・ナーゲルスマンの電撃解任から1か月。当初から会議の声も聞かれる決断ではあったが、それにしてもバイエルンがここまで苦しむと予期していた人はどれだけいただろうか。DFBポカール、CLと国内外カップ戦での敗退に続き、ブンデスリーガでもドルトムントとの直接対決を制し奪還した首位の座から再び陥落。ドイツの盟主の迷走、その要因を探る。
失点時のトーマス・トゥヘルの表情が、事態の深刻さを物語っていた。
4月22日のマインツ戦でFKの流れから同点に追いつかれた瞬間、トゥヘルはピッチ際で怒鳴り声を挙げるわけでもなく、選手たちを鼓舞するわけでもなく、ゆっくりと目を閉じて他人事のように首を傾けた。一緒に戦っているという感情が、どこかに行ってしまったかのように――。
バイエルンは1点を先制しながら、65分からの14分間に3失点を喫してマインツに敗れてしまった。
トゥヘルが新監督に就任してから、バイエルンは公式戦7試合でわずか2勝。DFBポカールとCLから姿を消しただけでなく、ブンデスリーガの11連覇も危うくなってきてしまった。
ユリアン・ナーゲルスマンを解任する前は、まだ3冠の可能性があったのだ。電撃解任は完全に裏目に出たと言わざるを得ない。経営陣も完全に混乱しており、オリバー・カーンCEOの退任が噂され、ウリ・ヘーネス名誉会長の復帰がささやかれ始めたほどだ。
いったいバイエルンで何が起こっているのだろう?
「同足」ウイング起用を試みるも…
トゥヘル体制のスタートから振り返ってみよう。初戦となったドルトムント戦は4-2で勝利。新しい空気が吹き込まれ、ジェットコースターのような調子のアップダウンはなくなるかと思われた。
トゥヘルはシステムをバイエルン伝統の[4-2-3-1]に戻し、両サイドに逆足のウイングを置く戦術を採用した(左に右利きのキングスレイ・コマン、右に左利きのレロイ・ザネ)。大外をSBが追い越していくスタイルだ。
どこにでもあるオーソドックスな戦術だが、ウイングが1対1でドリブルを仕掛けやすい。選手たちはナーゲルスマン流の「最小限の幅」から解き放たれ、のびのびとプレーした。
しかし、トゥヘルにとって準備期間がない中での「暫定モデル」に過ぎなかったのだろう。すぐにCL準々決勝のマンチェスター・シティ戦が控えていた。ペップのチームに対しては、ありふれた[4-2-3-1]では簡単に対応されてしまうだろう。……
Profile
木崎 伸也
1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。