『戦術リストランテⅦ』発売記念!西部謙司のTACTICAL LIBRARY特別掲載#6
好評発売中の『戦術リストランテⅦ 「デジタル化」したサッカーの未来』は、ポジショナルプレーが象徴する「サッカーのデジタル化」をテーマにした、西部謙司による『footballista』の人気連載書籍化シリーズ第七弾だ。その発売を記念して、書籍に収録できなかった戦術コラムを特別掲載。「サッカー戦術を物語にする」西部ワールドの一端をぜひ味わってほしい。
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選手寿命が延びている。かつては30歳を超えれば引退も間近というのが一般的だった。例外的に40歳前後までプレーする人もいて、ディ・ステファノ、ペレ、クライフ、ベッケンバウアーなどスーパースターの選手寿命は長く、全盛期が短かったジョージ・ベストでもいちおう38歳まで現役だった。現在はそこまでスーパーな存在でなくても40歳ぐらいまでプレーする選手はいるし、第一線でバリバリやっているオーバー30は珍しくなくなった。トレーニングやコンディション管理が進み、もちろん医学の進歩も大いに寄与している。
一方、監督は体力の限界が選手ほど関係ないので、60歳や70歳の監督もあり得るわけだが、1つのチームで何年続くかは別の話である。代表監督はW杯のサイクルで契約することが多く、比較的長期化するケースが見られる。ドイツ代表のヨアヒム・レーヴは15年間も率いていた。ドイツ代表は長期政権が多く、ゼップ・ヘルベルガーに至ってはブランク期間があるとはいえ28年間も代表監督だった。チームが強ければ長期化するかといえばそうでもなく、ブラジル代表監督は長くて4、5年で1年もたないケースも多々ある。このあたりは監督の資質よりも雇う側の協会の体質によるものだろう。
クラブチームの最長政権は有名どころではオセール(フランス)のギー・ルーが挙げられる。約40年間率いていた。ただ、ビッグクラブになると任期は短めで、だいたい3年やれば長い方だと思う。
スタイルを作る監督は長期政権になる
「監督には2種類しかない。クビになった監督とこれからクビになる監督だ」という有名な言葉があるけれども、それぐらい辞任・解任は日常茶飯事だ。そんな中、リバプールのユルゲン・クロップ監督はすでに8シーズン指揮を執っていて、契約期間の2026年までやれば11年間におよぶ長期政権になる。プレミアリーグではアレックス・ファーガソン(マンチェスター・ユナイテッド)の27年、アーセン・ベンゲル(アーセナル)の22年という例もあるので、それに比べればクロップは短く感じるけれども、ファーガソンとベンゲルは実質的なGMだったので長期化していた事情はあるだろう。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。