いよいよ準々決勝に突入する22-23シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ。同国対決となったのが、ミラン対ナポリの組み合わせだ。第1レグはミランのホーム、スタディオ・サン・シーロで4月12日(日本時間4月13日4時キックオフ)に、第2レグはナポリのホーム、スタディオ・ディエゴ・アルマンド・マラドーナで4月18日(日本時間4月19日4時キックオフ)に開催される。カード発表当時、圧倒的な強さでセリエA首位を独走するナポリに対して、年明けの不調からようやく立ち直りつつあったミランの対戦は、ナポリ有利という見方が強かった。奇しくも欧州での決戦を目前に控えた4月2日、セリエA第28節に組まれていたナポリ対ミランが一段と注目を浴びることとなる。しかしその“CL前哨戦”は、予想だにしない結末を迎えるのだった。
ピオーリのナポリ対策と静かな自信
前半終了時点で0-2、終わってみれば0-4。どのポジションの選手たちも躍動し、相手に思うようにプレーをさせず、決めるべきシーンで確実に決める。そんな「目に見える圧倒的な差」は、今季これまでにナポリがセリエA、そしてCLの相手にさえも見せてきた姿であったが、この夜、ナポリ相手にそれをやってのけたのがミランだった。
「これでもう誰も(CLの抽選で)楽な相手を引いたとは言わないだろうね」
ナポリ監督、ルチャーノ・スパレッティのミラン戦後の会見での言葉は、いつも通りの皮肉めいた響きだ。確かに戦前の評では、リーグだけでなくCLでもナポリ圧倒的有利と見る向きが多かった。もっとも監督の言葉を素直に受け取るには、ホームでの0-4の敗戦はあまりにショッキングな結果ではあるのだが。
「CLは別のコンペティションで、別の環境だ。今夜の結果は関係がない。まったく別の試合になるだろう」
ミラン監督、ステファノ・ピオーリも「落ち着け」と内外に伝えるように、冷静な姿を会見で見せた。あくまで本命はCLだと言わんばかりである。リーグ首位チームから敵地で4点も取ったのだから、もう少し喜びを見せてもバチは当たらないだろうに。だが続ける言葉には、静かな自信を感じさせた。
「昨年だって誰も我われがスクデットを取るなんて思っていなかった。今年だってそうだ」
現実的にスクデットは難しいリーグでの勝ち点差(残り9試合で22)だが、CLはベスト8にまで勝ち残った。ここまで来れば、この先は予想不可能な領域だ。だから前哨戦となったこの試合が、のちにターニングポイントとして振り返られる一戦となる可能性は大いにある。そしてそれを実現したのは他でもない、ピオーリの策なのだ。
不調に陥ったチームを立て直すために採用した3人の最終ラインを以前と同じ4人に戻したこと。高い位置に張ったSBと最終ラインに降りていくラデ・クルニッチで相手のプレッシングの的を絞らせず勢いを削いだこと。イスマエル・ベナセルをトップ下に起用してナポリの心臓、スタニスラフ・ロボツカを封じたこと。ここぞというタイミングで賭けに出る勝負師ピオーリの決断が、今回は吉と出た。ラファエル・レオン、ブラヒム・ディアスの両ウイングがともに結果を出したのも、ことこの試合においては偶然ではない。ナポリで売り出し中のウイング、クビチャ・クバラツヘリアのボックス内への侵入を用心深く防いだ右SBダビデ・カラブリアの守備も、念入りに対策を講じた上でのものだろう。
ボールを保持し最終ラインから前進するナポリに対して、簡単には前線にボールを入れさせないよう集中した守備を披露したミランの中盤3人は、この試合では特にその質の高さが際立っていた。ロボツカのマーカーに徹するベナセルと、最終ラインに降りてビルドアップを助けるクルニッチの2人は戦術タスクの遂行という意味で非常にいい仕事をしていたが、恐るべきは試合を通してナポリ側に流れを傾けることを許さなかった、サンドロ・トナーリの信じ難い献身性の高さである。機器察知能力、局面での判断力の高さ、走り負けない、当たり負けない身体能力の高さ。ミランの守備の綻びをギリギリでカバーし続けたトナーリは、「強いミラン」の復活を象徴するかのようだった。
歌わないナポリ
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Profile
大田 達郎
1986年生まれ、福岡県出身。博士(理学)。生命情報科学分野の研究者。前十字靭帯両膝断裂クラブ会員。仕事中はユベントスファンとも仲良くしている。好きなピッツァはピッツァフリッタ。Twitter:@iNut