シーズンも佳境を迎えるタイミングでのバイエルンの決断に、衝撃が走った。当代屈指の辣腕として名を馳せるユリアン・ナーゲルスマンにとってはキャリア初となる、志半ばでの解任。様々な憶測が飛び交うその背景事情を考察する。
あまりにも不可解な解任劇だった。
3月24日、バイエルンはユーリアン・ナーゲルスマンの解任を発表した。後任には昨年9月までチェルシーを率いていたトーマス・トゥヘルが就任。気鋭の戦術家のバイエルンにおける旅は、わずか21カ月間で幕を閉じてしまった。
バイエルンは決してスランプだったわけではなく、3月19日にアウェイでレバークーゼンに2-1で敗れてブンデスリーガ2位に転落したとはいえ、CLベスト16ではパリ・サンジェルマン(PSG)に勝利して準々決勝へ駒を進めていたのだ。通常ではあり得ないタイミングの解任だろう。
『ビルトTV』の取材に応じたサポーターのひと言がすべてを表している。
「4月1日のドルトムント戦で勝利すれば再び首位に戻れるのに、なぜこのタイミングなのか? まったく馬鹿げている!」
いったいバイエルンで何が起こったのか?
要因の大半はピッチの外にあり
『ビルト』紙の「なぜバイエルンはナーゲルスマンを解任したのか?」という記事など、メディアにたくさんの分析があふれた。今回はそれらを集約し、10個の理由を挙げたいと思う。
1. 不安定なパフォーマンス
1年目となった昨季はブンデスリーガを制して10連覇を達成したものの、DFBポカールではボルシアMGに5-0で敗れて早期敗退。CLでは準々決勝で伏兵のビジャレアルに2戦合計1-2で敗れてしまった。
2年目となった今シーズンも波が大きく、第4節から4試合勝利から見放され、第16節からは3試合連続で引き分け。そして第25節にレバークーゼンに敗れ、ついに首位から陥落してしまった。
スポーツダイレクターのハサン・サリハミジッチは会見で「1年目の後半に見せた不安定さが2年目に改善されることを期待したが、そうはならなかった」と説明。ベストのパフォーマンスの時はバルセロナやPSGを圧倒する力を発揮するが、ワーストの時はブンデス下位に苦戦してしまう。振り幅の大きさが問題視されたのである。
2.選手たちからの不信感
サリハミジッチが会見で「ナーゲルスマンはロッカールームの掌握を失った」と語ったように、選手たちから信頼を失ったことが解任の最大の理由とされている。『ビルト』紙によれば、特に「幹部クラス」の選手が戦術に不信感を抱いていたという。
ただ、ヨシュア・キミッヒとレオン・ゴレツカは「ユリアンとは何の問題もなかった」とサリハミジッチの発言に反論しており、不満を抱えていたのはセルジュ・ニャブリ、レロイ・ザネ、そしてトーマス・ミュラーというのが有力な説だ。……
Profile
木崎 伸也
1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。