短期集中連載「私とエコロジカル・アプローチ」第1回
好評発売中の『エコロジカル・アプローチ 「教える」と「学ぶ」の価値観が劇的に変わる新しい運動学習の理論と実践』は、欧米で急速に広がる「エコロジカル・アプローチ」とその実践メソッド「制約主導アプローチ」の解説書だ。
エコロジカル・アプローチは様々な分野に応用可能な理論で、異なる角度から掘り下げることで違った発見があるはずだ。第1回は、育成年代の指導者らいかーると氏に「育成とエコロジカル・アプローチ」というテーマで書評をお願いした。
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従来の革命を起こしてきた思想との違いは?
サッカー界ではときどき革命や天下統一が起こることで知られています。
革命の定義は新発見やプレーの再定義によって旧来の価値観に大きな影響を与えることを意味しています。日本で言えば、バルセロナサッカースクールから輸入されたグローバルトレーニング、オシム監督によって広められた多色ビブス練習、ミゲル・ロドリゴによってもたらされたフットサル界で行われているトレーニングの数々は多くのサッカーコーチに多大な影響を与えることとなりました。
天下統一の定義は結果を残すことで、世界に大きな影響を与えることです。世界に目を向けてみると、グアルディオラ×バルセロナとスペイン代表の栄華によって世界中でボールを保持するサッカーを目指すようになったことは記憶に新しいでしょう。日本で言えば、野洲高校の選手権優勝は、多くのフォロワーを生むことになり、各地域でクリエイティブに尖りすぎたチームが生まれています。また、青森山田の高円宮プレミアリーグでの最強感はフィジカルとロングスローの再定義を日本中に強制することになりました。
Jリーグに目を向けてみれば、川崎フロンターレの時代は日本中に「止める・蹴る」を広げています。このように、新しい考えで世界をひっくり返すか、結果によって大きな影響を与えるかの二択が日本サッカーを変化させる方法であることは間違いのない事実となっています。おそらく、視点を世界に広げても似たようなものなのではないでしょうか。
従来の革命を起こしてきた思想たちとエコロジカル・アプローチが異なる点は、エコロジカル・アプローチは運動学習・スキル習得理論であることでしょう。サッカーだけの話ではないことが最大の強みとなっています。本書に載っているテニスのトレーニングの話は非常に刺激的です。また、バスケットボール選手のステフィン・カリーが同じ場所からでなく、様々な場所からシュート練習を行う内容もエコロジカル・アプローチを表す象徴的なエピソードなのではないでしょうか。
これまでのトレーニング方法を伝統的アプローチとすると、伝統的アプローチは「コーチが正しい運動を言葉で規定する言語的な指導によって学習を導くこと」です。一方で、エコロジカル・アプローチは、「運動を引き出す重要な制約を練習環境に設けること」を特徴としています。つまり、トレーニング中にコーチが言葉でああだこうだ叫ぶよりも、トレーニングの設計、制約によって自然と身につくようにデザインすることが求められる理論と言えるでしょう。伝統的アプローチに対して、エコロジカル・アプローチを実践するメソッドは制約主導アプローチと言われているようです。
「いいとこ取り」のススメ
さて、ここからが本題です。育成とエコロジカル・アプローチはどのような共生関係になっていくでしょうかについて考えていきたいと思います。
最も気になる点は、コーチの姿勢の話となります。……
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。