巨大なビジネス、2030年W杯の開催権獲得をめぐってスペインが目まぐるしく動いている。
ルワンダで開かれたFIFA総会で、26年大会以降は48チーム制になり試合数も104になることが発表されたばかり。カタール大会が32チーム、64試合だったから、さらなる巨大ビジネスになることが約束されたわけで、そのご利益にあやかりたいとスペインも開催地に立候補している。
当初スペインは「イベリア半島連帯」をスローガンに掲げて、ポルトガルとの共催を打ち出していた。
ポルトガルは開催実績がないが、スペインは82年に実績がある。サッカー的にはライバル関係にあることもあってポルトガルは単独開催を狙っていたはずだが、開催地はFIFA加盟の211連盟の投票(1連盟1票)で決まるのだ。UEFAの票を割って共倒れにならないためにも、共同開催は必須だった。
昨年10月、ここにウクライナが加わった。それにともなってスローガンが「欧州連帯」に変わった。ロシアの侵攻による悲惨な戦地の模様が日々伝えられているウクライナ。「サッカーを通じて平和のメッセージを送りたい」(ルイス・ルビアレス/スペイン連盟会長)というメッセージに異議を唱える者はいないだろう。が、唐突な東欧の参加は、嫌な見方をすればウクライナの平和を願う気持ちを票獲得に使っているようにも見えた。
そして14日、さらにモロッコが共同開催の輪に加わることが発表された。これはアフリカ連盟票の取り崩しを狙ったものだ。
節操がない、と言うなかれ
最大のライバルと目されているのが、サウジアラビア、エジプト、ギリシャの3国連合で、サウジアラビアがアジア連盟票を取りまとめ、エジプトがアフリカ連盟票を取りまとめると、半数に迫る101票になる。これではまずい、というわけだ。
と、同時にモロッコの参加は、ウクライナの共催取り止めの噂と連動しているとされる。
ウクライナ連盟会長に汚職の疑惑が浮上。これによって立候補の資格を失う訳ではないが、イメージ悪化で票が流失しかねない。慌てて、地中海を挟んだアフリカの隣国に誘いの声をかけたとされる。節操がない、と言うなかれ。
ちなみに、このスペイン、ポルトガル、モロッコ、ウクライナ(?)の連帯を何と呼ぶのかはまだ発表されていない。ウクライナが外れれば平和うんぬんというお題目も消える。 まあ、ネーミングや開催意義なんてものはどうでもいいのだろう。大事なのには、さらに巨大になるW杯利権を手に入れること。そのためには公正さとかクリーンさとかスポーツマンシップとかのサッカーの価値と真逆のことをやるのを厭わない、という過去の愚を繰り返さないことを祈るばかりだ。
Photo: Getty Images
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。