SPECIAL

トッティ以来のファンタジスタ。ロマニスタがディバラに夢を見る理由

2023.03.16

その男がスタディオ・オリンピコにやってきたのは昨年7月のこと。それから8カ月、ユベントスから加入した29歳のアルゼンチン代表FWは、ロマニスタのハートをわしづかみにしているようだ。そんなパウロ・ディバラとローマの幸せな関係を、ファンにはおなじみの人気WEBサイト『ASローマ速報』管理人、如月たくみさんに綴ってもらった。

 世界中のロマニスタたちは昨夏からずっとパウロ・ディバラという熱病に罹(かか)っている。イタリア紙『コリエーレ・デッロ・スポルト』によると、加入が発表された翌日には、ティフォージによって、市内のローマストアに彼の名前が入ったユニフォームを買い求める行列ができたのだそうだ。さらに驚くことに、その日のユニフォーム総売上額が、ユベントスがクリスティアーノ・ロナウド(現アル・ナスル)のユニフォームを国内販売した初動売上に並んだのだという。

 さかのぼること2カ月前の昨年5月26日、UEFAヨーロッパカンファレンスリーグを制したローマは、都市を挙げての凱旋パレードを敢行する。その熱狂が冷めやらぬうちにディバラ獲得ともなれば、気が早いロマニスタたちはすでに近い将来のビッグタイトルの夢を見始めるのも仕方のない話だ。最後のスクデットから22年、10度のコッパ・イタリア優勝で胸に縫い付けられるステラまであと1タイトルという状況のまま15年が経過しているのだから。

ヨーロッパカンファレンスリーグ優勝翌日の凱旋パレード

 それでも今シーズン、CLには出場しない、スクデットの望みも薄いという状況で、スタディオ・オリンピコでは毎試合、満員御礼が続いている。

 イタリアのWEBカルチャー誌『nss magazine』はこの現象について、今シーズンのチケット売上の51.7%を30歳未満の青年層が購入していることから、サッカーへの関心がなく、チケット購買意欲の薄いこの層を取り込んだことがローマのチケット販売施策の成功に繋がったと分析する。英国の高級ストリートウェアブランド「ARIES(アリーズ)」とのコラボレーションや、ニューバランスとのサプライヤー契約がその潜在的なファン層を刺激したのだ。また、同誌はもう一つ重要なファクターに言及している。

 「それでいて、彼らは都市のアイデンティティも忘れていない」

 ローマは昨年6月に、同じ首都を本拠地とする世界的なファッションブランド「FENDI(フェンディ)」と2年間のパートナー契約を発表した。1925年に設立したFENDIと1927年に設立したASローマ、同じ都市で100年近く続く歴史を紡いできた二社の邂逅(かいこう)は、アメリカ資本になって久しいこのクラブが、グローバリゼーションの過程でルーツを見失っていないことを表している。

 今シーズンのオリンピコには、スペイン、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなど、実に176カ国からファン・サポーターが集まっている。その基盤となるシーズンチケット3万6000枚を完売させた地元のロマニスタたちに、こういった地元企業とのコラボレーションが見事にリーチした。

 しかし、2011年から6シーズン、ローマでスポーツディレクターを務めたワルテル・サバティーニは、このチケット完売現象にややシニカルな意見を持っているようだ。

 「正直、なぜローマのチケットが毎試合売り切れるのか理解できないね。本来はチームが結果を出すから売れるものだろう? これはおそらくモウリーニョ監督に対する期待があるからなのかもしれないな」

 確かに、一昨年ジョゼ・モウリーニョがフィウミチーノ空港に到着した時の狂騒ぶりは、まるでCLとスクデットとコッパ・イタリアを獲得したかのようなお祭り騒ぎだった。だが、このオリンピコのチケット完売はそれだけが理由ではない。

 彼らは……いやぼくたちロマニスタはトロフィーを掲げるよりも先に、ディバラに新しい10番の資質を見つけたのだ。だから、彼がピッチでファンタジーアを振りまく瞬間をスタジアムで共有したいのだ。

そしてぼくたちは、あの日のゼロトップを見た

……

残り:2,425文字/全文:4,101文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

イタリアジョゼ・モウリーニョセリエAパウロ・ディバラフランチェスコ・トッティローマ文化

Profile

如月 たくみ

2004年から続くASローマ情報サイト『ASローマ速報』管理人で、2022年にローマ来日に合わせて設立された公認ファンクラブ「ROMA CLUB TOKYO」の会長を務める。現在はJリーグ入りを目指すサッカークラブ南葛SCで広報、運営として働いている。自著にトッティのラストシーズンを綴ったkindle電子書籍『ローマ速報オフライン』がある。【WEB】ASローマ速報〜ROMANISMO | 2004年からローマの魅力を伝えるロマニスタサイト(asromasokuhou.com) 【Twitter】如月【ASローマ速報⚡ROMANISMO official】(@roma_sokuhou)

関連記事

RANKING

TAG

関連記事