それぞれのリーグで首位を走るバイエルンとパリSGがCLラウンド16で激突した。一見すると勝敗予想の難しいカードだが、西部謙司氏は波乱要素の少ない2試合だったと振り返る。ドイツとフランスを代表する両雄の差は果たして何だったのだろうか。
CLラウンド16注目のカードは、意外にあっさりとバイエルン・ミュンヘンがパリSGを下して勝ち抜けた。これといったドラマのない、平凡といえば平凡な2試合だったかもしれない。
パリSGのホームで行われた第1レグは0-1、バイエルンホームの第2レグは2-0。バイエルンの完勝といっていい。ただ、そこまで圧倒的な差をみせつけたわけではなく、予想された範囲内での僅差がそのまま出た形である。
どちらもスター軍団、それぞれのリーグで一強状態の王者という似た者同士だが、明確な違いはFWの性質だった。
リオネル・メッシ、キリアン・ムバッペ、ネイマールを擁するパリSGは個のクオリティで優位ながら、この3人がほとんど守備をしないという大問題がある。リーグ1ならそこまで大きな問題にはならないが、相手がバイエルンとなれば話は別だ。FWが守備をしないということは、必然的にバイエルンがボールを支配する流れは避けられない。そして、パリSGは守勢になって強いチームではない。この「あらすじ」が事前にわかっている2試合でパリSGが活路を見出すとすれば、バイエルンの拙攻とMMNの爆発が重なった場合だけだった。そして、そう都合の良い具合にはいかなかったので、順当にバイエルンが勝ち抜けた。拍子抜けするぐらい波乱要素の少ない2試合だったといえる。
お手本はマルセイユのメッシ、ネイマール対策
ホームの第1レグ、パリSGはケガが癒えたばかりのムバッペをベンチに置き、メッシとネイマールの2トップによる[4-4-2]を選択。バイエルンは[3-4-2-1]基調、トップには元パリSGのエリック・マキシム・チュポ・モティング、2シャドーにはジャマル・ムシアラとレロイ・サネが入った。
ムバッペがいないのはバイエルンにとって好都合だったに違いない。メッシ、ネイマールの2トップへの対策はクープ・ドゥ・フランスですでにマルセイユが披露している。足下でパスを受ける2人の背中にぴったりとCBを貼りつかせる。かわされそうになったらファウルでオーケー。それほど難しいタスクではない。
メッシ、ネイマールは守備をしないので、パリSGは高い位置からプレッシングを行うことはできない。誰かが余る3バックの1人はフリー、持ち上がって組み立ての起点になれるうえ、攻め込めばプラスアルファとしてゴール近くまで行くことも可能だ。バイエルンの攻め込みの形は[2-3-5]。CB1人が中盤まで出ていく。
どうしても押し込まれることが決まっているパリSGは、自陣で奪ったボールは意地でも繋ごうとする。そうしなければ展開が一方的になってしまうからだ。バイエルンの包囲網を何とか逃れてメッシ、ネイマールまでボールを届ければ、スーパーな2人が何とかしてくれる期待はある。……
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。