SPECIAL

原理的なポジショナルプレーとは明らかに違う「人とボールが同時に動く」独自のスペース創出

2023.03.07

2010年代前半にユベントスで3バック戦術を機能させたアントニオ・コンテは、新型3バックのパイオニアの1人だろう。以来、イタリア代表、チェルシー、インテルで結果を出し続け、21-22シーズンに就任したトッテナムでも独自の3バック戦術でいまだ最前線で存在感を発揮し続けている。22-23シーズンも過酷なプレミアリーグでCL圏内の4位と好調を維持。そんなイタリア人監督の縦に速いサッカーを徹底解剖する。

※『フットボリスタ第94号』より掲載。

 2021年の就任以降、コンテ体制となったトッテナムは、指揮官の慣れ親しんだ5バックへと回帰している。今シーズン、ポッターの下でアンカーとして飛躍的な成長を遂げたビスマや、長短のパスに秀でコンダクターとしての役割を期待できるベンタンクールなど厚みのあるMF陣をそろえたことで、ワールドクラスの2トップの援護射撃ができる形となった。ここではコンテの5バックのメカニズムを、あえてペップ・シティを筆頭とする原理的なポジショナルプレーとの構造的な相違点を見ていくことで明らかにしてみる。ポイントとなるのは、「資源をどう生み出しているか」「その資源をどのように利用しているか」である。

 サッカーにおいて、試合が始まる時点ですでに決まってしまっている両軍のプレーヤーを除けば、資源と呼べるものはたった2つしかない。ボールとスペースである。この2つこそが試合開始とともに両チームが奪い合う対象であり、逆に言うとゴールは奪い合いの結果、出力される結果に過ぎない。

 しかしながら、この2つの資源は切り離して考えることができない。なぜならゴールのためにはシュートレンジ内でボール保持者がスペースを確保していることが重要であり、いくらフリーであろうと、ボールが得られなければ絵に描いた餅であるからだ。よってボールを保持しながらいかにスペースという資源を確保していくか、が攻撃の手筋として重要である。

 原理的なポジショナルプレーを遂行するチームとトッテナムとで大きく異なるのは、資源たるスペースの生み出し方である。前者はピッチ上の価値あるスペースに構成員を散開させた上で、引きつけてはリリースを繰り返すことでスペースを紡いでいくのに対して、後者は1列ずつ前進したり、ライン間のスペースに陣取り続けたりといった特徴をあまり見せない。

負傷離脱中のベンタンクールに代わってホイビュアの相棒を務めるスキップ。2-0で勝利したチェルシー戦では見事なミドルシュートを沈め、チームに勢いをもたらした

 結論から言えば、トッテナムは「ボールホルダー以外の選手の大きなポジション移動」によって、スペースを生み出している。具体的な例として3つほど考えたい。

コンテのスペースの生み出し方❶
レーンをまたぐ「デコイの動き」

 1つ目として、トッテナムの崩しの局面で非常に多く見られるパターンを紹介する。空間的な猶予のある大外のウイングバック(WB)の選手に対して、ハーフスペースに位置するインサイドハーフまたはシャドーの選手が積極的に裏へと抜けることでWB―CF間のパスルートを創出するプレーである。

 ハリー・ケイン、ソン・フンミン両名はWBに対して基本的に斜めのコースにサポートの形を作る。ケインのようなフリックのうまい選手が絡むことで、近くのソンとコンビネーションをしたり、抜けたインサイドハーフ/シャドーの選手へスルーパスを出したりすることでボックス内に侵入している。特に後者のプレーはフットサルの「サイ」と酷似しており、守備者からすれば、一度囮(おとり)となった選手が視野外からもう一度受け手となって突進してくるので非常に守りにくい。

 こういったデコイの動きが非常に効果的なのは現代サッカーの守備戦術の発展と大きく関わっている。

 5レーン理論が普及した現代サッカーにおいて、その応手としてボール非保持の局面では5バックを採用するチームが増えている。その結果、レーンを自分の持ち場として前向きに思い切って守備をする迎撃型のDFが台頭し、最終ラインの選手には「人に強く出る」というマンツーマンディフェンスの要素が重要になるばかりか、もはや必須となった。DF陣の意識としてもマンツーマンへの揺り戻しが多少あるはずであり、無駄走りであったとしてもこのようなランニングを厭わず、外回りの前進から中へ差し込むというトッテナムが目指す攻撃ルートの成功率が高くなっているのだろう。トッテナムからすれば、こちらの抜ける動きによって、相手のハルプフェアタイディガー(HV=3バックのサイドCB)を守備位置からどかしてしまうことが可能になる。無論、守備者としては二択を突きつけられており、抜ける動きを放置しておけばソンやリシャーリソンといった選手に裏のスペースでボールを受けさせてしまうことになる。

万能な9.5番として攻撃を支えるケイン。リーグ戦では18ゴールを挙げている

……

残り:3,045文字/全文:5,066文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

アントニオ・コンテトッテナム・ホットスパープレミアリーグ

Profile

高口 英成

2002年生まれ。東京大学工学部所属。東京大学ア式蹴球部で2年テクニカルスタッフとして活動したのち、エリース東京のFCのテクニカルコーチに就任。ア式4年目はヘッドコーチも兼任していた。

関連記事

RANKING

TAG

関連記事