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冨安のミスは必然?シティが仕掛けた「ロングボール→ハイプレス」の緻密な設計

2023.02.17

今週のミッドウィークに唯一行われたプレミアリーグは、首位攻防戦となるアーセナル対マンチェスター・シティ。優勝争いという意味では、今季ここまでのリーグ戦で最も重要な一戦といっても過言ではないだろう。延期の影響でリーグでは今季初の対戦となる両雄はアーセナルのホーム、エミレーツで激突した。

マークされるジョルジーニョと放置される冨安

 試合の数時間前にいくつかのメディアが報じていた通り、トーマス・パーティが欠場。前日のトレーニングでの負傷が原因のようで、アーセナルにとっては不運なトラブルとなった。というわけで、冬に加入したジョルジーニョがアーセナルでの初スタメンを飾ることになる。アーセナルにとってはトーマスに比べて機動力に劣るジョルジーニョをいかにプロテクトするかが重要なポイントになる。

 試合が始まるとわかったことなのだが、ジョルジーニョの存在は対戦相手のシティにとっても重要だったようだ。シティのプレスにおいて、ジョルジーニョのマークは絞った左右のウイングが受け渡しながら守っていた。ジンチェンコが中央に立つ時はマフレズとグリーリッシュがともに絞りながら中央を守っていた場面もあり、シティのウイングの守備の意識はかなり中央寄りにあったと言えるだろう。

 こうしたやり方は今季のシティではあまり見たことがない。それだけジョルジーニョに自由を与えたくないという証拠だろう。ジョルジーニョは味方に積極的に指示を出したり、フリーになった際には相手の懐に入り込むような縦パスを出すなど、要所要所でポゼッションの達人ぶりを見せていた。29分にサカがゴールに迫った場面はジョルジーニョの縦パスがきっかけになったものである。

 ウイングが内側に絞るシティの守り方の代償は、当然アウトサイドのレーンが空くこと。アーセナルから見て左サイド側はデ・ブライネが早い段階で出て行くことでケアしていた。こちらのサイドはハーランドが下がってスペースを埋める場面もあり、優先的にケアしたいという思惑が見える。ジンチェンコ、ジャカ、ガブリエウを軸としたアーセナルの左サイドにはシティは十分な注意を払っていた。

 それに比べると、アーセナルの右サイドは放っておかれた感があった。グリーリッシュが中に絞っている場面では原則でいえば右SBの冨安にはギュンドアンが対応することになる。だが、間に合っていないのか、そもそもそれなりでいいという判断なのか冨安はフリーで放置されることが多かった。

 冨安は愚直にサカに縦パスを通していたし、別にそれが悪いというわけではなかった。しかし、相手を引き出すアクションがないためシティの守備の陣形に影響を与えていたわけではなかった。冨安がグリーリッシュの届かないところでギュンドアンのカバーを引き出せば次にアーセナルが狙うべき穴が見える可能性は十分にあった。冨安は試合中にビルドアップの方法を修正しようとはしなかったので、結果的にシティが彼を放置してインサイドを固めるというプランは当たっていたように思える。

ハーランドを軸とする前進の論理性と歪さ

 シティのボール保持は非保持ではSBに入るベルナルドがインサイドに入り込み、ロドリの脇に立つ[3-2]型だった。ベルナルドがSBと言われると驚く人もいるかもしれないが、ロドリの隣にベルナルドが並び立つ形は少なくとも保持においては今季何回も見られている光景。少なくとも保持においては日常の枠組みの中の話と言えるだろう。

 FAカップのシティ戦ではマンツーマンで高い位置から潰しに行ったアーセナルだが、この試合においても似たようにマンツーマン気味に前から捕まえに行く。シティの保持では常にエデルソンとディアスをエンケティアが1人で見る形になっていたため、ここでボールを落ち着けることができる。アーセナルのハイプレスがショートカウンターのトリガーになることはほぼなかった。……

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アーセナルプレミアリーグマンチェスター・シティ冨安健洋

Profile

せこ

野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。

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