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「サッカーに興味がなくなった」から半年でカムバック。欧州最高峰の舞台で2000年代“5人目”のイングランド人指揮官となった男の挑戦

2023.02.17

 スコット・パーカー(42歳)が、CLの舞台でチームを指揮した。昨年末にベルギーのクルブ・ブルッヘの監督に就任した元イングランド代表MFは、今週行われたCLのラウンド16でベンフィカと対戦。2000年以降、CLでイングランド人監督が采配を振るのはわずか5人目だという。

 2022年夏、パーカーは人生の岐路に立たされた。イングランド2部にいたボーンマスをプレミアリーグ復帰に導いたものの、2022-23は開幕わずか4試合で解任の憂き目に。引き金となったのは、第4節の「0-9」で敗れたリバプール戦だった。9点差というのはプレミアリーグの最多得点差記録に並ぶもので、当然ボーンマスにとっては過去最大の敗戦だった。その結果を受けてパーカーは、プレミアリーグ史上12番目に早い「開幕から25日」で解任されてしまった。

 打ちひしがれたパーカーは完全にサッカーから気持ちが離れたというが、それでも情熱を再燃させて欧州最高峰の舞台に挑戦。そんなパーカーが、自身の失意について英紙『The Telegraph』で振り返っているので紹介しよう。

25年間続けてきた「頑張り」を止めることへの恐怖

 パーカーは、現役時代にイングランド代表としてEUROのピッチに立ち、2011年には記者協会が選出する年間最優秀選手にも選ばれた。2017年に現役を退いた後はすぐに古巣トッテナムでコーチ業に乗り出し、その後はフルアムやボーンマスを指揮してきた。ブレーキを踏むのが「少し怖かった」と語り、14歳でナショナルトレセンに選ばれてから一度も休まずに走り続けてきた42歳は、昨夏の解任で30年ぶりに現場を離れたことによって見えたこともあると振り返る。

 「勝敗でのみ判断される監督業の慌ただしさ、『あと一歩だけどうすれば前に進めるか』と勝利だけに全身全霊を注いできた日々。それが一瞬にして……何時に子供を迎えに行くかを考えるだけになった」と、昨年8月に解任された瞬間について英紙で振り返った。

 「14歳で実家を出てナショナルトレセンの寮に入り、その後は今の妻と出会って25年間ずっと同じ時間を過ごしてきたからね。昔から怖かったのさ。『今日もマジで頑張らなくちゃ』とか『結果を出すためにこれをしなきゃ』と思わなくていい生活がね」

 だが、実際にサッカーの現場から離れたパーカーは「家族が自分に合わせるのではなく、自分が家族に合わせる生活」に幸せを感じ、そしてサッカーへの情熱が完全に失せたのだという。

 「サッカーに興味がなくなり、まったく試合も見なかったよ」

 現役時代は、待ち遠しかったシーズンオフの休暇でも「2週間もすれば足がうずき出した」そうだが、今回はじっくりと休んで自分を見つめ直したというパーカー。それでも3カ月ほどするとじっとしていられなくなり、再び監督モードに切り替わって試合を分析するようになったという。

“目指す自分”になるために

 そして、クルブ・ブルッヘからの誘いを受けることを決断。本人や家族にとっても少し驚きだったというベルギーからのオファーを、「成長する素晴らしい機会」と考えて承諾した。英国人監督としての使命感もあるようだ。

 「自分にとってだけでなく、英国人指導者にとって素晴らしいチャンスだ」とパーカーは考える。CLの舞台でイングランド人監督が海外クラブを率いるのは、過去25年間でわずか3人目。PSVを率いた1998年のサー・ボビー・ロブソン、2015年にバレンシアを指揮したギャリー・ネビル、そして今回のパーカーだけしかいないのだ。

 これは、パーカーにとって“次の自分”へとステップアップする好機なのだ。「私はイングランド2で2つのチームを昇格に導いた。それは自分にとって大きな功績だった。でも、何か違うことにも挑戦してみたかったんだ。他の国、他の文化、他の組織に身を置くのも悪くないと思ったのさ。再びイングランド2部のクラブを率いても、“目指す自分”にはなれないと思ったんだ」

 ベルギーリーグで3連覇中のクルブ・ブルッヘだが、今季は優勝争いから脱落している。しかしだからこそ、パーカーは余計に燃えるという。

 「今季は苦しんでいる。だから私にチャンスが回ってきたのさ。私は長期にわたる成功、サッカー文化、コーチング哲学を築ける位置までクラブを立て直したいんだ。”プロセス”と言うと『だろうね』と言われてしまうので嫌いなんだ。でも、経営難の会社がトップを代えた2週間に黒字に転じることができるかい? でも、それを求められるのがサッカーなのさ」

 そう考えると、今のパーカーにとってCLでの結果は二の次かもしれない。それでも「監督業を歩み始めた時、目指したのはこの舞台だ。最高峰の舞台だから、楽しみにしているんだ」と意気込む指揮官に注目したい。

現役時代、2004-05に所属したチェルシーでCLの舞台を踏んだパーカー。ベンフィカとの第1レグは0-2という厳しい結果に終わったが、第2レグでの逆転を見据えているはずだ

Photos: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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