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「カンセロ・ロール」だけじゃない。シティでロマン溢れたジョアン・カンセロの「逆足サイドバック」を振り返る

2023.02.12

移籍市場閉幕の迫る1月31日、マンチェスター・シティに所属するジョアン・カンセロが買取オプション付きの半年レンタルでバイエルンへ加入することが発表された。ペップ・グアルディオラ監督の下、従来のサイドバック像を覆す「カンセロ・ロール」を担いながらプレミアリーグ連覇に貢献していたポルトガル代表DFの電撃移籍に寄せて、もう一つの魅力である「逆足サイドバック」としてのロマンをinamo氏に綴ってもらった。

「カンセロ・ロール」が生んだ相乗効果

 ジョアン・カンセロがシティにやってきたのは2019年の夏。実質的なダニーロと2800万ユーロ(約33億円)とのトレードでユベントスから加入した。入団初年度こそ出場機会に恵まれず控えに甘んじたが、2季目の20-21シーズンから本領を発揮する。そこで誕生したのが「カンセロ・ロール」だ。

 「カンセロ・ロール」とは、まず[4-3-3]の左右いずれかのSBを務めるカンセロが、チームのボール保持時に中盤へと加わり、4人目のMFのように振る舞うこと。ビルドアップでは中に絞ってアンカーの隣で組み立てをサポートする。

 ここまではいわゆる「偽サイドバック」と変わらないが、違いはボールが前線に入ってから。カンセロは中盤の底からさらに高い位置へと上がっていく。今度はインサイドハーフもしくはウイングのようにプレーしていくというわけだ。本来SBのポジションにいるべきカンセロが、様々な局面に顔を出すことで相手のマークは混乱。フィニッシュでは5レーンに並ぶ両インサイドハーフと3トップの前線5枚に、機を見て6人目の刺客として加わりながら局所的に数的優位をもたらした。

 さらにカンセロが並みのSBと異なるのは、傑出した攻撃センスだ。パス(クロス)、ドリブル、シュートと三拍子そろった高い技術はシティのそろえる世界屈指の攻撃陣にも引けを取らず、内でも中でも違いを作り出して相手に致命傷を与えられる。こうした質的優位まで生み出せてしまうのが「カンセロ・ロール」最大の特徴だろう。

 この戦術はチーム全体に相乗効果をもたらした。特に恩恵を受けたのはイルカイ・ギュンドアンだ。カンセロによってビルドアップやチャンスメイクにおける負担を軽減されたインサイドハーフは、プレーエリアを一列広げてゴール前まで顔を出せるようになる。そのポジションでギュンドアンが発揮したのは、かつてシティでアシスタントコーチを務めたミケル・アルテタ(現アーセナル監督)も絶賛していた「タイミングを計って敵のペナルティエリアに走り込む」能力。さらには持ち前の正確無比なボールタッチで限られた時間と空間でもシュートに持ち込み得点を量産した彼は、20-21シーズンにキャリア&チーム最多の公式戦17得点を記録した。

 エースのセルヒオ・アグエロがケガによる戦線離脱を続ける中でも、得点不足に喘がなかったペップ・シティはプレミアリーグ王座を奪還。リーグカップ(カラバオカップ)4連覇に加えて、クラブ史上初となるCL決勝の舞台にも立った。

中への選択肢が持てる「逆足サイドバック」

 その立役者は翌21-22シーズン以降も進化を続ける。右SBを本職としながらも左SBとしての起用が増加したカンセロは「カンセロ・ロール」を担う中で、「逆足サイドバック」としてのプレーを洗練させていった。

 象徴的なのは今季プレミアリーグ第10節サウサンプトン戦、大量4得点の口火を切った先制弾のシーンだ。敵陣の大外レーンでボールを受けたカンセロは左足で大きくボールを縦に運ぶ。ここまでは通常、左SBに入る左利きの選手と同じだが、レフティではそのままボールを持っていてもコーナーフラッグへと向かうしか選択肢がない。そして角へと追い込まれて手詰まりに陥りがちだが、右利きのカンセロは違う。中という2つ目のオプションを持てるからだ。……

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