実質初の外国人監督の可能性も?“国民の関心事”話題が尽きないブラジル代表次期監督選考の行方
1月28日、昨年のブラジル全国選手権優勝パルメイラスと、コパ・ド・ブラジル優勝フラメンゴが対戦するスーパーカップが開催された。試合後、会場でブラジルサッカー連盟(CBF)エジナウド・ホドリゲス会長が報道陣に応対した際、この機会を逃すまいとばかりに飛び交った質問は大会について以上に、ブラジル代表の次期監督選びの進行状況についてだった。
会長は監督の選考基準について、こう語った。
「国籍による偏見はない。我われが求めるのは代表チームにインスピレーションを与え、選手の特性を尊重したプレースタイルを見出せる監督であること。1つのボールで勝負するような監督は、ブラジル代表には適さない」
つまり、守りを固めてカウンターアタックのチャンスを狙うといったようなプレースタイルに選手を当てはめるのではなく、才能があり、個性豊かなブラジル人選手たちの特性を生かすためのスタイルをフレキシブルに見出し、チームとして昇華していける監督というニュアンスだ。
「欧州の戦術という問題に対処できれば…」
その方針については、同17日にも会長が強調している。それはチッチと彼のスタッフが正式にCBFとの契約を破棄した日であり、これをもって、会長はそれまで控えていた次期監督についての質問に答えるようになったのだ。
「選手たちにふさわしいレベルの試合を提供できる、尊敬に値する監督を望んでいる。そして、ブラジルがいつでもやろうとしてきた、非常に攻撃的なサッカーを実践できること。サッカーにおける戦術的要求は、非常に高いものになっている。その中で、ヨーロッパの戦術という問題に対処できれば、選手の才能と個性を生かすことによってブラジルは常に勝者になれる」
「我われが(監督に)求めているのは、献身的であること、責任感を持つこと。そしてA代表だけでなく、将来への高いポテンシャルを持つ選手たちのいるU-23、20、17代表にも目を向けることができるようにしたい。これまでと同様、我われは(監督への)サポートを惜しまない。素晴らしい仕事のためには、必要なことをすべて提供するつもりだ」
会長は「これまでにメディアが候補として名前を取り上げた監督が26人いた」と冗談めかして語りながら、ここまでCBFとしては誰とも接触しておらず、前任監督やそのスタッフとの契約が正式に終了したことにより、これから先方と話をしていくとした。そして、その相手はメディアが取り上げた中の数人であるとも明かしている。
割れる国民の意見
国内の大きな関心は、ブラジル代表にとって実質的に初となる外国人監督就任の可能性があるのか。過去には1925年ラモン・プラテーロ(ウルグアイ人)が19日間、1944年ジョルジ・ゴメス・ジ・リマ(ポルトガル人)が3日間、1965年フィルポ・ヌネス(アルゼンチン人)が1試合のみといった具合に、かなり昔に数日間、指揮を執った外国人がいただけだ。
調査会社ダッタフォーリャのアンケートでは、外国人監督招へいに賛成する国民が昨年7月は30%だったのが、12月には41%に増加。カタールW杯で準々決勝敗退したことが、ブラジル人監督に対する信頼度に影響したと言われている。それでも、ほぼ半数の48%はブラジル人を望んでいる(残りは「どちらでもない」が6%、「無回答」が5%)。国民にとっても、外国人監督への是非は日々の会話に頻発するテーマだ。
メディアでは様々な名前が浮上したり消えたりしてきたが、現在も報道が続くのはカルロ・アンチェロッティ(現レアル・マドリー監督)、ジョゼ・モウリーニョ(現ローマ監督)、ジネディーヌ・ジダン(現在無所属)、ルイス・エンリケ(現在無所属)。
ブラジル人では2010年8月から12年11月までブラジル代表を指揮した経験があり、現在もインテルナシオナウで絶好調のマノ・メネーゼスや、昨年フラメンゴをコパ・リベルタドーレス優勝に導いたドリバウ・ジュニオール(現在無所属)、現在48歳と比較的若いがメディアから人気の高いフェルナンド・ジニス(現フルミネンセ)あたりの名前がささやかれている。
最近では、ルイス・エンリケ有力説が急浮上していた。W杯カタール大会までスペイン代表監督を務め現在無所属であることや、元ブラジル代表ロナウドと話をするほど本人が興味を示していると伝えられたことがその理由だが、ブラジルのサッカージャーナリストたちからは「経歴も実力も見るべきものがあるが、自分のこだわるプレースタイルに選手を当てはめるタイプの彼は、ブラジル代表を指揮するには適さない」と言う意見も出ている。
一方で、2024年6月までの契約をまっとうすると言っていたアンチェロッティのクラブでの立場が、クラブW杯の結果次第という局面に立たされているという噂をもとに、可能性が出てきたという説もある。
会長も「クラブと契約のある監督については、本人より前にそのクラブの会長と話し、交渉の余地があるかを確認する」とし、現時点クラブで指揮を執っている監督を除外しているわけではない。
決定まで、メディアも国民も落ち着けない次期監督の行方。会長は、理想としては2月の早い段階、そうでなくても3月下旬のFIFA国際マッチデーには新監督の体制で臨みたいとしている。果して、どのような決断が下されるのだろうか。
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Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。