SPECIAL

目の前の試合を淡々とこなしたシティと、未来を意識したアーセナル。プレミア首位決戦“前哨戦”で交錯した両者の思惑を読み解く【マンチェスターC 1-0 アーセナル】

2023.01.30

1月27日に行われたFAカップ4回戦で実現した、現在プレミアリーグ首位のアーセナルと2位マンチェスター・シティとの直接対決。リーグ戦延期の影響によりまだ2試合の直接対決を残す両雄はこの“前哨戦”をどのように戦い、そして何が見えたのか。らいかーると氏が分析する。

 今季のプレミアリーグの優勝争いは、2チームに絞られたと言っても過言ではないだろう。優勝争いの常連になっているマンチェスター・シティと、久々に首位を快走しているアーセナルだ。そんな2チームがFAカップで相まみえることになった。おそらくはリーグ戦の方にプライオリティが置かれることだろう。

 となると、このFAカップをどのように位置づけるかは非常に難しいところである。絶対に負けられない試合において、勝敗の記憶が結果を左右する大事な要因になりかねないと考えれば、まだ2試合を残しているリーグ戦での直接対決のためにもこの試合に負けるわけにはいかない。一方で、リーグ戦を考慮してこの試合をデータ集めと考えることも間違った姿勢とは言えないだろう。そういう意味では、この試合は今後に訪れる優勝を左右するであろう直接対決における伏線として、大きな意味を持つ試合になることは間違いのない事実だ。

 メンバーを眺めると、シティは限りなくベストメンバーに近い陣容で臨み、対するアーセナルはターンオーバーを意識した構成となっている。起用された選手からすれば、シティを相手に自分の序列をひっくり返すチャンスを与えられたとも言えるだろう。特に、新加入のレアンドロ・トロサールがアーセナルの前線にふさわしいかどうかをはっきりさせるにはもってこい過ぎる相手となった。

アーセナルの“マンマーク大作戦”とシティの応対

 最初に仕掛けたのはアーセナルだった。シティのボール保持に対して、マンマークで対抗する策に出る。GKのシュテファン・オルテガがボールを持つと、マンチェスター・シティの面々はアーセナルの選手に捕まる盤面となった。

 全員がマンマークならば、最前線の同数を利用する原則のために存在しているアーリング・ホーランドの出番は増えることとなる。ただしエデルソンと比べると、オルテガのロングパスはスピードに劣る部分があったことも事実だろう。また、マヌエル・アカンジもオルテガも右利きであったため、その位置から両サイドに蹴るのは大変そうだねという場面があったことは、エクスキューズとして浮上するかもしれない。

 アーセナルからすれば、ホーランドへの放り込みに対してロブ・ホールディングがどれだけ耐えられるか、周りのカバーリングはどのようにすべきかを試しているようにも見えた。危険な場面もあったが、特にGKマット・ターナーの飛び出しに支えられながらもホールディングは最低限の仕事をこなしていたのではないだろうか。41分にとうとうイエローをもらってしまうと後半から彼に代わりウィリアム・サリバが登場したことも含めて、アルテタ監督の計算通りに物事が進んでいたのではないかと推察してしまう。

 マンマーク大作戦でシティのボール保持局面を減らすことに成功したアーセナルは、自分たちがボールを保持する意思を示す。シティのプレッシングは[4-2-3-1]をベースとしながらも、右肩上がりの論理で動いている。いざとなったらナタン・アケをCBで使えるように、右SBのリコ・ルイスを果敢に前に出すことで、配置のずれを連動した強度によって制御する狙いがあった。アーセナルは何とかプレッシングを回避できそうな雰囲気を感じさせながらも、ビルドアップ隊のミスが目立ったこともあって、徐々にシティがボールを保持する展開へ局面は移行していく。

 15分過ぎからは、オルテガではなく最終ラインの選手がボールを持つ形に変化していく。最近のシティの3バックは両脇のCBがSBのような役割をしていたこともあって、アカンジが孤独に中央に配置されることが多かった。しかし、この試合では全員が捕まっている関係で、ジョン・ストーンズがどのレーンに立ち位置を取るべきか悩んでいるように見えた。

 シティのビルドアップの特徴は、空白エリアを創るところにある。例えば、アカンジの横に誰もいなければ、両脇のCBやリコ、1列前のロドリ、GKのオルテガがそのエリアを使うことが許されている。例えば、ストーンズがアカンジの横に移動すれば、右サイドのエリアが空くことにあり、その位置にリヤド・マレズが下りてきたり、インサイドハーフの選手が移動してきたりする。こうした動きはシティの名物となっている。

 しかし、位置的優位を消すためのマンマーク大作戦である。アーセナルの面々はかなりの距離の移動を許可されているようで、列を下りていくホーランドにもがっつり対策が組まれていた。こうなると裏へのロングボール大会となりそうだが、ホーランドが下がって代わりに誰かが裏に飛び出す形がシティに装備されているようでされていないところも、アルテタは分析済みなのかもしれない。

 マンマーク大作戦への対抗策として、必要なのは相手を背負っても平気な選手である。さらに、その位置からレーンを横断することで、相手にマークの受け渡しを悩ませると最高である。そして、そのプレーを軽やかに行える選手がジャック・グリーリッシュであった。利き足とは逆のサイドで起用されるメリットはこんなところにも存在している。対面する冨安健洋をもってしても、横断を目的とするグリーリッシュを止めることは至難の業であった。

マッチアップするグリーリッシュと冨安

シティが施した2つの修正

……

残り:3,054文字/全文:5,341文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

アーセナルマンチェスター・シティ

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。

関連記事

RANKING

関連記事