先週末、イングランドのチャンピオンシップ(2部リーグ)で新たな歴史が生まれた。同リーグにおいて初めて、女性審判員が1試合を通じて主審を務めたのである。
歴史的な一戦となったのは、1月21日に行われたチャンピオンシップ第28節のバーミンガム対プレストン。試合は今季アウェイで好成績を残しているプレストンが開始15分のうちに2点のリードを奪い、終盤に1点を返されるも1-2で勝ち点3を持ち帰ることに。敗れたバーミンガムはリーグ戦5連敗となり、残留争いに巻き込まれようとしている。
そんな試合を裁いたのは、イングランドの女性審判界の第一人者とされる39歳のレベッカ・ウェルチだ。ウェルチはこれまで数々の”初”を成し遂げてきた審判である。2019年まで英国の公民保健センターでも働いていたウェルチは、審判業に専念し始めると2021年にイングランドのフットボールリーグにおいて初めて主審に任命され、4部リーグの試合で笛を吹いた。
さらに、昨年1月には女性として初めて男子のFAカップ3回戦で主審を担当。その時もバーミンガムの試合で笛を吹いていた。イングランドの審判員を取り仕切る団体「PGMOL」が「先駆者」と称えるウェルチが今回、ついに2部リーグの試合も裁くことになったのだ。
アクシデントが生んだ13年前の史上初
ただ、女性審判がイングランド2部リーグで笛を吹くこと自体は初めてではない。遡ること13年前、2010年2月にコベントリー対ノッティンガム・フォレストの試合で女性審判員のエイミー・ファーンが主審を担当している。だが、その時は試合中にふくらはぎを負傷した男性主審と交代する形で、残り20分間だけ笛を吹いたに過ぎなかった。
それから女性が主審を任されることはなく、イングランド2部リーグで女性審判が正式に主審に任命されたのは今回が初だったのだ。
試合はというと、バーミンガムのファンがクラブオーナーへの抗議活動を行う険悪な雰囲気の中で始まり、試合終盤には抗議行動が度を超えてピッチに乱入するホームサポーターまで出てくる始末。それでもウェルチ主審は慌てることなく対応して、大きな問題もなく試合を最後まで裁いた。地元紙のマッチレポートに目を通すと「チャンピオンシップで初の女性主審」という紹介はあったものの、それ以外で彼女の名前が出てくることはなかった。ウェルチは、試合後に判定がまったく話題にならないという、レフェリーにとって最大の称賛を浴びたのである。
昨年のW杯でも日本の山下良美が審判団に選ばれ、フランスのステファニー・フラパールが女性として初めて男子W杯で笛を吹くなど、最近は女性審判員に注目が集まっている。プレミアリーグでも今季からナタリー・アスピノルが女性として史上3人目となる副審を務めており、世界最高峰リーグでも女性審判員が笛を吹く日がいつか必ず訪れるはずだ。
Photos: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。