日本がドイツ、スペインという世界屈指の強豪国をいずれも2‒1の逆転勝ちで下し、ベスト16進出を決めた。2010年の南アフリカからの4大会中3回目の勝ち上がり。もはや立派なW杯中堅国の仲間入りを果たしたと言っていいだろう。この快挙をイタリアからフラットな視点で見ていた筆者が思うことを綴る。
※『フットボリスタ第94号』より掲載。
これを書いているのはスペイン戦勝利の当日。このW杯はイタリアが出場していないおかげで動向を逐一追うチームを持たず、ほぼニュートラルな観戦者として楽しませてもらっているのだが、せっかくのタイミングなので、日本代表のグループステージでの戦いぶりについて、日頃イタリアで欧州サッカーを追っている立場からコメントしておきたい。
欧州サッカーに鍛えられた「個」の集団
ドイツ戦とスペイン戦について考える時にまず最初に浮かび上がってくるのは、この2つの勝利は極めて似通っているということだろう。いずれの試合でも日本は前半、積極的なプレッシングによるボール奪取を試みず(あるいは早々に諦め)、相手にボールを委ねてローブロックの撤退守備で受けに回り、ほぼ一方的に押し込まれて1 ゴールを許した。1点のビハインドで折り返した後半、攻撃力を高める狙いを持った選手交代を契機に攻勢に転じ、10分足らずの短い時間に2ゴールを奪って逆転すると、再び守勢に戻って残り時間を守り倒して逃げ切った。
データ分析会社Optaによると、スペイン戦のボール支配率17.7%は、W杯の勝利チームで史上最も低い数値だとのこと。そもそも、勝ち負けにかかわらず一方のボール支配率が80%を超える試合というのは、少なくとも筆者にはほとんど記憶にない。
ただし、ボールは一方的に支配されたものの、1試合を通しての累積xG(ゴール期待値)は、日本の1.27に対してスペインは1.12。前者は得点になった2本のシュート、後者もモラタの先制ゴールを除くと終盤にダニ・オルモとアセンシオが放ったシュートくらいしか決定機らしい決定機はなかった。コスタリカから7点奪ったとはいえ、ボールは支配するもののそれに見合っただけの決定機を創出できないというのは、近年のスペインが一貫して抱えてきた弱点の1 つではある。
しかし、それを差し引いても日本の守備は素晴らしかった。5+4のコンパクトかつ高密度なブロックでスペースを閉じ、ボールホルダーにプレッシャーをかけ続けボールがオープンになる状況を作らせないことで、スペインが狙うコンビネーションによる裏抜けのチャンスをほとんど許さない。この守備ブロックの組織的連係の緻密さ、ポジショニングやプレッシャーの巧さ、そして何より実質100分間を通して保たれたインテンシティの高さは特筆に値する。
ドイツ戦のボール支配率も、スペイン戦ほどではないにせよ26%と低い数字。最初から5バックでスペースを閉じたスペイン戦とは異なり、大会前から準備してきた[4-2-3-1]で臨んだ前半は、左サイドの高い位置に進出したラウムにまったく対応できず、ドイツのポジショナルな5レーン攻撃に4バックが数的不利に置かれるという絵に描いたような苦境に陥った。前半に与えた決定機は、ギュンドアンの先制ゴールも含めて少なくとも6回。累計xGも前半だけで1.7に及んでおり、2点、3点奪われてもまったくおかしくない内容だった。スペイン戦の前半を1失点でしのいだのは必然だが、ドイツ戦は幸運だったと言うしかない。……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。