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ムドリク獲得に思う、オーナーと監督に望むこと。チェルシーに「健全」な成功は訪れるのか

2023.01.23

昨年9月に就任したグレアム・ポッター監督の下、プレミアリーグでは10月下旬から11試合2勝4分5敗。迎えた今冬、移籍金140億円超のFWミハイロ・ムドリク(22)をはじめ、DFブノワ・バディアシル(21)、FWダビド・ダトロ・フォファナ(19)、MFアンドレイ・サントス(18)、FWジョアン・フェリックス(23)、FWノニ・マドゥエケ(20)と早くも6選手を獲得したチェルシーに今、明るい未来は見えるのか。西ロンドンで長年クラブを追い続けてきた山中忍さんが伝える。

 49%――グレアム・ポッター体制下のチェルシーに関する数字だが、ポゼッション志向の新監督率いるチームがリバプールと敵地で引き分けた今季プレミアリーグ20節でのボール支配率ではなく、同日に『タイムズ』紙のオンラインアンケートで「ポッターはチェルシーで成功できるか?」に「イエス」と答えていた読者の割合だ。その1月21日のスコアレスドローで、リーグ戦では8勝5分7敗の10位。加えて、2つの国内カップ選手権ではすでに敗退。47歳の前ブライトン監督は、就任5カ月目にしてビッグクラブ初挑戦が失敗に終わると予想され始めている。

 アンフィールドで記録した実際のポゼッションは52.5%。対ユルゲン・クロップ軍では上出来と言いたいところだが、対戦時9位のリバプールは調子も自信も自軍と同様の低下ぶり。実態は「中位対決」だった一戦でもボール支配に「怖さ」が伴わなかったチェルシーには、“ポッター・ボール”ことポッター流の攻撃サッカーはもちろん、なんら明確なスタイルが見られない。この一戦でマン・オブ・ザ・マッチを選べば、ブノワ・バディアシルとCBコンビを組み、移籍2戦目の21歳をコーチングしながら無失点に貢献したチアゴ・シウバになる。

 より注目度の高い新戦力、ミハイロ・ムドリクが後半にベンチを出てデビューを果たしたが、複数の強豪クラブが欲しがった才能の片鱗をうかがわせるにとどまり、チームの勝利には至らなかった。やはり今冬の移籍早々にジョアン・フェリックスがピッチに立った1月12日のフルアム戦(●2-1)にも同じことが言えた。チェルシーは、こうした矢継ぎ早の補強が「手当たり次第に買い漁っている」としたアラン・シアラーなどの識者に「明確なプランを欠く」と評されてもいる。

リバプール対チェルシー(0-0)のハイライト動画

ベーリーの長期展望とポッターへの信頼

 言われても仕方のない部分はある。アメリカ人のトッド・ベーリーを代表とするコンソーシアムによる昨夏のクラブ買収以来、獲得選手数はリバプール戦当日に発表されたノニ・マドゥエケで16人を数えた。移籍金総額は600億円以上。今季末までの短期レンタルで手に入れたフェリックスにしても、1試合に1億円を超える計算になるサラリーを要している。

 しかも、1月の移籍市場でフェリックス、ムドリク、マドゥエケが加わり、夏にはクリストファー・エンクンク(現RBライプツィヒ)の加入も内定とされる攻撃陣は、レンタルでレバークーゼンに出ているカラム・ハドソン・オドイを含めればウインガータイプのFWが6人に膨らんだ。その一方でCFとしては、シャドー向きのカイ・ハベルツが“偽9番”を任される試合が多い。前監督を慕って来たはずのピエール・エメリク・オーバメヤンは、移籍直後にトーマス・トゥヘルが解任されたチームで、元アーセナル主砲としての実績にしても自信にしても「じ」の字すら見られない状態だ。

 とはいえ今季のチーム立て直しではなく、新たなチーム作りという観点から新オーナー政権下の補強を眺めれば、そこには「若き力」という明確なポリシーが見て取れる。国内ではリバプール、国外ではユベントスなどの興味が伝えられるメイソン・マウントを筆頭とするアカデミー産若手戦力とのバランス感覚は必要だが、エンクンクまで含めた昨夏以来の獲得選手は、オーバメヤンとカリドゥ・クリバリの両30代を除けば平均年齢21.7歳。第1号となったラヒーム・スターリングも、プレミア歴は長いが年齢的ピークの入り口に当たる27歳での移籍だった。……

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イングランドグレアム・ポッターシャフタール・ドネツィクチェルシートッド・ベーリープレミアリーグミハイロ・ムドリク

Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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