ナポリ5得点の必然。セリエA首位決戦はなぜ大差がついたのか【ユベントス戦プレーバック】
セリエA第18節の注目マッチ、首位ナポリ対2位ユベントス。南北イタリアを代表する両チームの今季初対戦は、ナポリのホームで現地金曜(1月13日)のナイトゲームとして開催された。快進撃を続けるナポリと、序盤に取りこぼしながらも直近8連勝で2位に浮上したユベントスの直接対決は好ゲームが期待されたが、多くの予想に反した衝撃的な結末を迎えた。この結果は果たして必然だったのか。試合内容を振り返りながら、両チームの今後と併せて考察したい。
“この試合に懸けるもの”
「明日の試合が決定的なものとはならない。この試合が重要なのは彼らの方だ」
ユベントス監督、マッシミリアーノ・アッレグリの前日会見でのコメントである。カタールW杯による中断前、CLでは予選敗退という悔しい結果になったものの、徐々に復調の兆しを見せているユベントス。直近のリーグ戦を8連勝かつクリーンシートという好成績で2位に浮上してきた。7ポイントの差を縮め、首位を射程圏内とするためには勝ち点3が必須の試合だが「プレッシャーがかかるのは相手の方だ」という冒頭の発言。アッレグリ流の心理戦を仕掛けている。
しかしこれに激しく反応したのがナポリのサポーターである。北部による南部の支配という歴史的な経緯もあり、ユベントスはナポリにとっての宿敵なのだ。“ナポリ対ユベントスでダービーのように熱くなっているのはナポリ側だけ”とも受け取れたアッレグリの言い回しに「俺たちにとってこの試合がどれほど重要か知りたいか?」とヒートアップするサポーターの投稿がSNSにあふれた。もっとも、アッレグリはかつて現役時代にナポリでプレーしていたこともあり、自身の発言が挑発として取られることに無自覚だったわけではないだろう。
アッレグリに続いて会見を行ったナポリ監督、ルチャーノ・スパレッティは「(野心を)隠したって無意味だよ。4位で満足するユベントスなんて存在しないだろう」と冷静に返す。「(ユベントスがチームに行っている)投資はリーグ、もしくはチャンピオンズリーグの優勝によってしか回収されないのだよ」とも付け加え、やり返すことも忘れなかった。
昨年の対戦では口論にまでなった、あまり良好とは言い難い関係の両指揮官。シーズン折返しのタイミングでの上位直接対決。監督も選手も自然とモチベーションが上がる。好ゲームの条件は完璧に整っているように見えた。
最強の矛 vs 最強の盾
前節ウディネーゼ戦(○1-0)で招集外となっていたグレイソン・ブレーメルが先発に復帰。同じく前節は途中出場だったフェデリコ・キエーザも右サイドでスタメン入りし、元ナポリのアルカディウシュ・ミリクを1トップに、少し下がる位置にアンヘル・ディ・マリアを置いた[3-5-1-1]で臨んだのはユベントス。ベテランDFレオナルド・ボヌッチやエースFWドゥシャン・ブラホビッチをはじめ離脱者の多いチーム状況ながら、8試合連続クリーンシートを達成したボールを相手に持たせる戦い方を継続する。
一方のナポリは所属メンバー全員が起用可能な状況で、マッテオ・ポリターノ、クビチャ・クバラツヘリア、そしてビクター・オシメーンを前線に配した[4-3-3]で挑む。今シーズン初の黒星となった前々節インテル戦(●1-0)とほぼ同じメンバーながら、左SBにはマティアス・オリベラではなくマリオ・ルイを起用。今季のナポリは左SBの起用が戦術面でのバリエーションになっており、フィジカルに優れ対人守備に強く、攻撃ではインナーラップでアクセントをもたらすオリベラと、精度の高いロングボール・クロスとポゼッション時の安定を保証するマリオ・ルイを、スパレッティ監督は対戦相手によって使い分けているようだ。
リーグ最多得点(39)のナポリと、リーグ最少失点(7)のユベントス。対照的なスタイルの両チームの対戦は、戦前の予想通りナポリがボールを保持し、それに対してプレッシャーをかけるユベントスという構図で展開していった。序盤は高い位置でのプレッシングは行わず、ハーフウェイラインに入ってきた相手に対してパスコースを切るようにプレスするユベントスに、ナポリはワンタッチパスを頻用し速いテンポで左右に揺さぶりをかけていく。ボールを失っては即時奪回を狙うナポリの激しいプレスの前に、ユベントスは前線までいい形でビルドアップを行えないまま時間が過ぎていく。
先制点は前半14分、ユベントスGKボイチェフ・シュチェスニーのロングボールのこぼれ球を回収し、そのまま相手の中盤2人を置き去りにしたスタニスラフ・ロボツカの巧みなドリブルから展開し、クバラツヘリアのアクロバティックなボレーシュートのこぼれ球をオシメーンが頭で押し込んだ。一連の見事な連係で、ナポリ攻撃陣の質の高さを見せつけるプレーだった。
昨年10月以来となるリーグ戦での失点を喫したユベントスは、その直後から打って変わって相手陣内まで果敢にハイプレスを行っていく。ディ・マリアのクロスバー直撃シュートを招いたアミル・ラフマニのパスミスはあったものの、ナポリはDF4人+アンカーのロボツカでハイプレスをかいくぐり、前線にいい形でボールを運ぶことができていた。
再びスコアが動いたのは39分。右サイドからのビルドアップでユベントスの中盤を引きつけて、ポリターノ得意の“ダイレクト・タッチダウンパス”の処理をブレーメルがミス。拾ったオシメーンからのパスを逆サイドで受けたクバラツヘリアが、いとも簡単にゴールに流し込んだ。
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Profile
大田 達郎
1986年生まれ、福岡県出身。博士(理学)。生命情報科学分野の研究者。前十字靭帯両膝断裂クラブ会員。仕事中はユベントスファンとも仲良くしている。好きなピッツァはピッツァフリッタ。Twitter:@iNut