今冬の移籍市場でマンチェスター・ユナイテッドが獲得したストライカーは、 “誤解されがち”なのだという。
彼らは夏に大型補強を敢行しており、ファイナンシャル・フェアプレー違反とならないようにするために、この1月の移籍市場では投じられる軍資金が限られている。そこで彼らが目を付けたのが、イングランド2部のバーンリーからトルコのベシクタシュに貸し出されているオランダ代表FWワウト・ウェフホルストだ。
30歳のストライカーはこれまで母国オランダやドイツで結果を残してきたが、イングランドでは評価が高くない。いや、むしろ低いと言った方が正しいだろう。2022年1月、ウェフホルストは当時プレミアリーグで最下位に低迷していたバーンリーの救世主となるべくイングランドにやって来た。ニューカッスルに引き抜かれた肉体派FWクリス・ウッドの後釜として期待されたのだが、プレミアリーグでは結果を残せずに20試合でわずか2ゴール。チームも6年ぶりに2部降格の憂き目に遭った。
だが、降格が決まった2週間後に臨んだUEFAネーションズリーグでは、オランダ代表としてウェールズ代表を相手に終了間際に決勝ゴールを奪う活躍ぶり。当時バーンリーでチームメイトだったウェールズ代表DFコナー・ロバーツはこれに激怒して、「なぜそれをバーンリーでやらなかったんだ!」と食ってかかったという。結局、ウェフホルストは2022-23シーズン開幕前にバーンリーからレンタルでベシクタシュに移籍。バーンリーのファンからすると「失敗作」というわけだが、ベシクタシュではリーグ戦16試合で8ゴールを決めている。
そして何より、カタールで開かれたW杯でも結果を残した。
準々決勝アルゼンチン代表戦では0-2とリードされた78分に投入されると、そこから2ゴール。反撃の狼煙となるヘディングシュートを決めると、後半アディショナルタイムにはFKのサインプレーから軽快な反転を見せて同点弾を決めてみせた。結局PK戦の末に敗れたが、優勝するアルゼンチンを最後まで追い詰めたのだ。
いい意味での“予想外”も
ウェフホルストの評価がイングランド国内外で異なる理由について、英紙『テレグラフ』は彼の体躯にあると指摘する。197㎝の長身は、一見すると典型的なポストプレーヤーだ。ロングボールを競り合ってマイボールにして、ゴール前で高さを活かしてネットを揺らす――先述したFWウッドのように、制空権を掌握してくれると期待したくなる。
だが、実際のウェフホルストは違う。意外にも、彼は空中戦の勝率が低いのである。昨シーズンのプレミアリーグでの空中戦の勝率は40%強で、これは100回以上の空中戦を戦った58選手のうち48位だったという。昨年4月のウェストハム戦では、FKの守備時に相手のクロスを頭でそらそうとするも届かずに同点ゴールを許してしまった。
その一方で、良い意味で予想外のデータも残っている。『Sky Sports』によると、90分ごとのプレスの回数は「48.7」で、昨季プレミアリーグで最多。さらに90分ごとの平均走行距離は「10.69km」でリーグ24位だったというのだ(出場680分以上の選手に限る)。
ウェフホルストは前線に張り続けるよりも、少し落ちてきてボールをもらう傾向にあるという。ひと言で言うと、バーンリーが思い描いていた選手とはまったくの別人なのだ。そして、それこそユナイテッドのオランダ人指揮官、エリック・テン・ハフが彼を欲しがっている最大の理由でもある。プレスと運動量に不満があってクリスティアーノ・ロナウドを使わなかったとされるテン・ハフ監督にとって、彼の特徴は魅力的なのだろう。
無論、だから確実にチームにフィットするわけではないが、彼がイングランドで“誤解”を解くところを見てみたい。果たして、ウェフホルストは期待に応える活躍を見せられるだろうか。
Photos: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。