12月26日に再開したプレミアリーグでは、FIFAワールドカップで失意を味わったエースが活躍を見せた。
W杯の中断期間を経て12月26日のボクシングデーにプレミアリーグが再開した。首位アーセナルが前半戦の勢いを維持してウェストハムに3-1で快勝するなか、彼らの地元の宿敵であるトッテナムも、シーズン前半戦と同じように粘り強い戦いで敗戦を免れた。
W杯での失敗は引きずらず
ブレントフォードを相手に敵地で2点を先制されたスパーズは、65分にイングランド代表のキャプテン、ハリー・ケイン(29歳)が反撃の狼煙となるゴールを奪った。ケインは滞空時間の長いジャンプからDFクレマン・ラングレのクロスを頭で合わせてネットを揺らした。このゴールで1点差に迫ったスパーズは、71分にデンマーク代表MFピエール・エミル・ホイビュアが同点ゴールを決めて2-2で勝ち点1をもぎ取った。
ボクシングデーのランチタイムに行われたこの試合は、プレミアリーグ再開後の最初のゲーム。「プレミアリーグが華々しい再スタートを切った!」と現地実況者が試合内容を称えれば、ブレントフォードのトーマス・フランクも「プレミアリーグ再開に持ってこいのゲームだった。リーグの広告塔となる試合だ」と好ゲームを絶賛。スパーズのアントニオ・コンテ監督も「またしてもエキサイティングな試合になった」と振り返った。
そんな試合で注目を集めたのは、やはりケインだった。2週間前、代表チームのキャプテンとして世界一を目指して臨んだW杯で、ケインは失意の敗退を味わっていた。12月10日に行われた準々決勝のフランス戦、ケインは1本目のPKを見事に決めるも、2本目をバーの上に外してしまい、フランスの前に1-2で敗れてベスト8で姿を消した。
1本目のPKでウェイン・ルーニーが持つイングランド代表の歴代最多ゴール記録(53点)に並んだケインだが、記録更新をかけて蹴ったPKは無情にも枠を外れた。「本当にわずかな差が勝敗を分けるし、その責任は僕にある」と、大会後にSNSで謝罪したケイン。彼はこの失意を乗り越えられるのか。そんな気持ちでブレントフォード戦を見守ったファンも多かったはずだが、心配は杞憂に終わった。
今回のゴールで新たな記録を樹立
「彼はマシーンなんだ」と試合後に『BBC』にてエースを称えたのはホイビュアだった。「彼の強さを疑うのは大きな間違いさ。彼は世界最高の選手になれるクオリティがある。フットボール界での最大の過ちは、ハリー・ケインを疑うことさ」
彼を信じていたのはチームメイトだけではない。「ハリーの精神面については全く心配していなかった」とコンテ監督も試合後に明かした。「彼は不思議な立場に立たされていた。W杯で活躍してチームを準々決勝に導いたが、重要なPKを外してしまった。だが、強い精神力があれば前に進めるもの。ハリーのようにね。ブレントフォードのファンは怖かったのだろうね。ハリーがイングランド代表ではなく、トッテナムの選手としてプレーしていたからね」
コンテ監督がブレントフォードのファンについて触れたのには理由がある。この試合ではサポーターのチャントも話題を集めたのだ。先制して気分を良くしたブレントフォードの一部ファンは「国を失望させた!」とケインを揶揄するチャントを送った。恐らく軽い冗談だったと思うが、これに対してスパーズのファンは「彼は俺らの一部だ」と反撃し、さらにブレントフォードのFWアイバン・トニーに向けて「トニー、オッズを教えてくれ!」とチャントを返した。
実は、この試合でブレントフォードの2点目を決めたFWトニーは、262件もの違法賭博の疑惑をかけられているのだ。そのためエースを“いじられた”スパーズのファンは、お返しとばかりにイングランド代表のW杯メンバーから落選したストライカーを揶揄し返したのだ。
何ともイングランドらしいピッチ内外での攻防が見られた好ゲームは、結局2-2のドロー決着。それでも最終的に話題をさらったのはケインだった。今回のゴールでケインは、プレミアリーグで対戦した全32チームからゴールを奪うというプレミアリーグ記録を樹立。さらにボクシングデー(12月26日)開催のプレミアリーグでは出場した全7試合で歴代最多の計10ゴールをマーク。そして、今回のゴールで史上3人目のプレミアリーグ通算200ゴールまであと4ゴールに迫ったのだ。
もうこれでケインを疑う者はいないだろう。もちろん、そんな“愚か者”はそもそもいないと思うが……。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。