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その一貫性はスペイン勝利のためだったのか? ルイス・エンリケは「フィロソフィと心中した」

2022.12.11

3大会ぶりの戴冠を目指したスペイン代表だったが、モロッコ代表にPK戦の末屈し2大会連続16強で終焉を迎えた。早過ぎる幕引きとなってしまった原因はどこにあったのか。スペイン在住の木村浩嗣さんが総括する。

 ルイス・エンリケが8日に電撃的に解任されてしまったので、「スペイン代表のW杯総括」は「ルイス・エンリケの4年間総括」と同義になってしまった。連盟との会談を待たずに大急ぎで任を解き、同時に後任まで発表したのは、それだけモロッコ代表戦敗退のインパクトが強烈だった、ということだろう。

 負け方が悪かった。PKはどんなに準備しても最後は運の部分もあるので仕方がないとしても、120分間に1000本以上パスを繋いで枠内シュートたった1本というのは、4年前のロシア代表戦の再現。PK戦負け、決勝トーナメント1回戦というところまで同じ。連盟会長も全国民4700万人も、またうんざりせねばならなかった。

 南アフリカ大会で世界の頂点に立って以降、実はW杯で3勝しかしていない。ブラジル大会の対オーストラリア代表、ロシア大会の対イラン代表、そして今大会の対コスタリカ代表、と明らかに格下相手にきっちり1勝ずつ、というペースは維持された。12年間で一歩も前進していない。失望と苛立ちが最大の責任者に向けられた。一刻も早くクビを切らないと自分も危ない、と連盟会長が焦ったのもよくわかる。自分が抜擢してあれだけ擁護し続けたのに、いざとなったら冷たいものである。

 今回の解任劇で、“どうせこんなもの”というルイス・エンリケが漂わせていた諦観が決定的なものにならないことを願う。サッカーなんて、連盟なんて、ファンなんて、メディアなんて……。そう、その通り。どうせこんなものなのだが、それを言っちゃあ、おしまいだ。愛とか努力とか団結とかの甘言でコーティングし夢を見させてくれないと、人はついて来ない。リーダーにはなれない。技術と戦術を教える優秀なコーチにはなれても監督にはなれない。今後のキャリアに幸あることを。

 ルイス・エンリケの終焉には「自ら墓穴を掘った」とか「自分の首を絞めた」といった形容が相応しい。いや、ネガティブな言い方だけでは一面的だ。「自らのフィロソフィとともに心中した」とも言っておきたい。

 モロッコ戦の前、何かを変えてくるのではないかという期待があったが、フタを開ければいつものメンバー、いつもの戦い方だった。セルヒオ・ブスケッツ、ガビ、ペドリ、マルコ・アセンシオ、ダニ・オルモ、フェラン・トーレス……。ブスケッツに代えロドリのセントラルMF起用、引いてくる相手に苦戦していたペドリを下げる、当たっているアルバロ・モラタの先発、期待外れが続くフェランをニコ・ウィリアムスに、攻撃の屋台骨を背負わされ疲れていたオルモをパブロ・サラビアに入れ替える……などはいっさいなし。前日の会見で、疲労蓄積とか経験不足というのはメディアの常套句、と鼻で笑っていた通りの采配ぶりだった。で、敗れた。

 PK戦ではサラビアの118分投入も含めた広義の経験不足が、その前の120分間では日本戦を見本にばっちり対策された相手にノープラン&ノーローテーションで挑んで予想通りシャットアウトされたことによる心身の衰弱が命取りとなった。代わり映えしないゲームプランを知って、監督への不信を芽生えさせた選手もいたと想像する。

PK戦直前に投入されたサラビア。1番手のキッカーを務めたが失敗してしまった

日本戦の敗北で揺らいだプランAへの確信

 今大会単体で言うと、日本代表戦で敗れたことが大きかった。自分たちのサッカー――ボールを保持しラインを上げ、ロスト後のプレスをし、敵陣で試合を進める――をすれば勝てる、という確信が揺らいだ。最強であるゆえに唯一無二であったプランAに疑問が生じた。

 日本戦の前にインタビューを受け、「日本が勝つ可能性は2、3割」と答えて「そんなにありますか!」と驚かれた。「引いた相手に点が取れないということは大会前からわかっていたが、点取り屋を招集しなかったことで問題はさらに深刻化した。とはいえ(相手は)自陣ゴール前でもボールを繋いでくるから、プレスをすれば必ずボールロストからビッグチャンスがやってくる。先制されても2点リードされても諦めないこと。若いチームだから動揺して連続失点もあるから」と説明した。

 どんなにプレスをかけられてもパスで回避できる、という確信があった。が、日本戦では前半詰めて来なかったはずの逆サイドのSBにまで後半はプレスされてボールを失い、失点した。

 普通のチームであれば、段違いの圧を感じれば大きく蹴っている。だが、監督の指示は蹴るな、だった。ピケやセルヒオ・ラモスであれば傲然と無視してクリアし「ミスター、無理ですよ」と笑って済ますところだが、ウナイ・シモンやアイメリク・ラポルトやアレハンドロ・バルデにはできなかった。グラウンド上のリーダー不在で「絶対的なリーダーは自分」と断言する監督の指示を無視するには、彼らはあまりにも若かった。自分の意に反しない、上意下達のチームを作ったのはルイス・エンリケであり、それが裏目に出てしまった。

日本戦後、うつむいて引き上げる選手たち

 日本戦の後、監督の選択肢は2つあった。……

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カタールW杯スペイン代表ルイス・エンリケ

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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