グループステージを2勝1分で悠々突破し、ラウンド16ではアメリカ代表に快勝とここまで順調に歩を進めてきたオランダ代表。アルゼンチン代表とぶつかった準々決勝では絶体絶命の窮地から追いつく執念を見せたものの、最後はPK戦の末に力尽きた。チームの出来、そして結果をいかに受け止めるのか、総評する。
16枚ものイエローカードが飛び交うなど、試合は荒れに荒れていた。後半アディショナルタイム10分、アルゼンチンが不用意なファウルでオランダにFKを献上。1点を追うオランダにとって、これが最後のチャンスだった。
コーディ・ガクポが助走するもFKを蹴らずに駆け抜けた。豊富なキックテクニックを持つテウン・コープマイナースがゴールを睨む。彼がキックモーションを起こすとアルゼンチンの壁が飛んだ。その下にコープマイナースがシュートを蹴り……。蹴り込まなかった。彼が蹴ったのは、正確なスルーパスだった。
スーパーサブとして78分から登場し、その5分後にヘディング弾を決めていたワウト・ウェフホルストがコープマイナースのFKを受け、巨躯を生かしてDFをブロックしてシュートを放つと、ボールはアルゼンチンゴールに吸い込まれていった。2-2!! オランダが驚異の粘りを見せて0-2から追いつた瞬間だった。
国外メディアは称賛するも、実は国内は批判的だった
念入りにPK戦の準備をしてきたものの、オランダは準々決勝でW杯を去った。「アルゼンチンの2CBはスピードに欠ける」と見たルイ・ファン・ハール監督は、3試合ぶりにステフェン・ベルフワインを抜擢し、メンフィス・デパイとの2トップで敵の背後を突こうとした。しかし、アルゼンチンは逃げ切り策として使っていた3CBシステムでこのオランダ戦に挑み、背後のスペースを消してしまったのは指揮官も認めた誤算だった。
それでも前半のオランダが愚直なまでにアタッカー陣を走らせロングボールを蹴ったのは、他に策がなかったから。今大会のオランダは伝統の[4-3-3]を捨てて[5-3-2]を採用し、カウンターに活路を見出そうとした。ポゼッションで自分たちの時間帯を作ることはとても大事なこと。しかし、オランダはW杯5戦目になっても、フレンキー・デ・ヨンクとの相棒が定まらぬままだった。アルゼンチン戦では中盤の守備職人マルテン・デ・ローンが先発したが、ファン・ハールは前半で彼に見切りをつけ、後半からコープマイナースを投入。これでオランダはポゼッションが高まった。
いや、アルゼンチンにボールを持たされたと見た方が良いだろう。オープンプレーのインスピレーションを欠くオランダは64分から今大会初めて得意の[4-3-3]に切り替えたが、リズムをつかむ前にメッシにPKを決められ0-2のビハインドを負った。
絶体絶命のピンチに陥ったオランダはわずか14分間で[4-3-3]を諦め、長身FWルーク・デ・ヨンク、ウェフホルストを前線に置く[4-4-2/4-2-4]に移行してパワープレーを敢行。このなりふり構わぬ策が83分に実り、ステフェン・ベルフハウスのクロスをウェフホルストが頭で合わせて1-2とし反撃の狼煙を上げた。そして土壇場でまさかのトリックプレーが決まって、延長戦に持ち込んだ。
結局、オランダはPK戦で涙を呑んだ。ラウンド16でアメリカを3-1で下した後、国外のメディアは「オランダは凄い」「オランダは強い」と褒め称えていたが、ビルドアップもままならぬ自国のサッカーにオランダのメディアは批判を強めており、諸外国からの称賛をサプライズとして報道していた。そして、最後までオランダのサッカーの質は高まらなかった。翌朝の新聞、ウェブはやはり批判の記事であふれている。
もし、オランダがPK戦でアルゼンチンを下していたら、奇跡の勝利として国内は湧いたことだろう。「美しいサッカー」「攻撃的サッカー」を美徳とする国民性だが、やはり勝利に勝るものはない。W杯でベスト4に進出していたら、オランダサッカーのニュースタンダードが生まれていた可能性すらあった。しかし、ミッションは失敗した。オランダのサッカーとはなんぞやという議論が、これから国内で白熱することだろう。
世代によるメンタリティの変化
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Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。