悔しさの中の光明。徳島ヴォルティスの19戦無敗は、なぜ起きたのか?
2022シーズンJリーグ総括#1
シーズン終盤、19戦無敗という驚異的な追い上げを見せ目前まで迫ったプレーオフ進出は、最終節の山形戦の敗戦で零れ落ちてしまった。しかし、ポヤトス監督と選手たちが1年間積み重ねてきたものが無に帰したわけではない。徳島ヴォルティスの挑戦を追ってきた柏原敏氏が、紆余曲折の2022シーズンを総括する。
1年でのJ1復帰を目標に掲げた2022シーズン。最終盤には19戦無敗という記録を打ち立てて猛追を見せた。しかし、その挑戦は前途多難だった。
嵐の前の静けさ?順調だったプレシーズン
その最初の壁が、大幅な変更を余儀なくされた編成。昨季最終節で先発出場した9選手を含む、合計13選手が入れ替わった。最も危惧されたのはチームの中核を担うボランチ。岩尾憲(現・浦和)、鈴木徳真(現・C大阪)、小西雄大(現・山形)、藤田譲瑠チマ(現・横浜FM)と主力級のボランチ候補全員が旅立った。幸いにも白井永地、長谷川雄志、櫻井辰徳といった経験値のある中堅や伸びシロのある若手を完全移籍や育成型期限付き移籍で獲得することはできたものの、種蒔きと収穫のバランスが完全に崩れてしまったことは否めなかった。
と、そんな不安は抱えながらもプレシーズンは意外と順調だった。すぐさま昨季と同レベルを求めるわけにはいかなかったが、それでも着実に前進しようとする姿勢には好感を持てた。
選手獲得の基準としてクラブ独自の『プロファイリング』があると周知されているが、適合する技量や人間性を備えた選手のリストアップと交渉が機能していることはあらためて理解できた。また、多くのクラブがコロナ禍のトラブルにも見舞われたプレシーズンだが、徳島で大きなトラブルは生じなかった。それが運なのか努力なのか。いずれにせよ良かったのは間違いない。
しかし、その後に予想以上の壁が待っていた。チーム再構築が最大の難関だと思っていたが、実際はカップ戦とW杯の影響を受けた過密日程が最大の壁だった。
5連戦、9連戦、7連戦が当たり前のように続く。大型連戦がひと段落する6月上旬までの約3カ月半は何も考える余地がなかった。そして、その後も3連戦程度の連戦は続いた。また、コロナ禍でストップしていたU-21日本代表の海外遠征が再開されるなど、主力級のメンバーに名を連ねていた藤尾翔太や櫻井が不在となる期間も重なった。
それらすべてを踏まえ、監督・スタッフ陣が最優先で向き合っていたのは負傷離脱者を出さないことだった。連戦の終わりが見え始めた頃、ダニエル・ポヤトス監督が「スタッフの見えないところでの仕事ぶりのおかげ」と最小限の離脱で乗り切ることができた奇跡に感謝を述べたこともあった。
ターニングポイントになったのは柏戦の翌日
しかし、シビアな問題は勝ち点だった。
16位でシーズンを折り返し、ポジティブに捉えればJ1参入プレーオフ圏まで数ポイント差だったが、ネガティブに捉えれば降格圏も数ポイント差に迫っていた。とはいえ、内容としては一筋の光が差し始めていたのも事実。にもかからず、その矢先に迎えた後半戦初戦の第22節・岩手戦(●0-1)で痛恨の敗戦。こればっかりは行き場のない悲壮感が空中分解につながってもおかしくなかった。
ただ、完全には終わっていなかった連戦に救われたとでも言うべきか、空中分解する暇すら与えてくれない。アウェイ戦から戻るや否や、ミッドウィークに開催される天皇杯3回戦・柏戦(●1-2)の準備を強いられる。岩手戦の振り返りをできたのは、その柏戦を終えた翌日だった。初夏の日差しが降り注ぐ中、ポヤトス監督はピッチ中央に選手たちを集めて長時間にわたって語り続けた。
内容までは聞こえなかったが、練習後に取材した選手の声から察するに「勝ちたいという言葉に見合っていないパフォーマンスだった。勝ちたいとか負けたくないとかの気持ちがもっと必要」(杉森考起)と戦術的なものではなく心に働きかけようとするものだった。
そして、週末の第23節・群馬戦(○1-0)を皮きりに19戦無敗が始まる。時を同じくして過密日程も終了へ向かう。しかし、この時点で6位が現実味を帯び始める未来は誰も想像していなかった。かつ、さらなる困難も待ち受けていたのだから。
渡井の海外挑戦、そしてコロナによる12人離脱…
10番、渡井理己の海外挑戦。
渡井がポルトガル1部のボアビスタFCに期限付き移籍することが決定。長い目で見ればクラブの歴史に刻まれる重要な出来事だが、今季の1年というスパンで言えば波乱のシーズンが続くことを予期させる重みがあった。渡井の海外挑戦は、チーム関係者のみならず、ファン・サポーターもある程度は予想できていたことかもしれない。しかしながら、現実的なものとして「個人的な想いとしては良かったと思うが、チーム的には痛い」(石井秀典)、「正直に言えば痛い」(内田航平)と重く響いたことは言うまでもない。
同時に進められた補強。そこでは過去に徳島で10番を背負った杉本太郎に白羽の矢が立った。その獲得に成功したことだけが唯一の救いだったが、その先の見通しは立っていなかった。その一方で、勝ち切れないながらも引き続き無敗記録はどんどん伸びていった。
そうこうしているうちに、次は違う角度から再び大問題が襲いかかる。……
Profile
柏原 敏
徳島県松茂町出身。徳島ヴォルティスの記者。表現関係全般が好きなおじさん。発想のバックグラウンドは映画とお笑い。座右の銘は「正しいことをしたければ偉くなれ」(和久平八郎/踊る大捜査線)。プライベートでは『白飯をタレでよごす会』の会長を務め、タレ的なものを纏った料理を白飯にバウンドさせて完成する美と美味を語り合う有意義な暇を楽しんでいる。