「サッカーをやっていて良かった」――カルチャーとスピードを感じるドイツ3年目の今。ハノーファー室屋成インタビュー(後編)
2020年夏にFC東京からドイツへ飛び立つと、新天地ハノーファーで瞬く間にチーム不動の右サイドバックとして地位を築き上げ、3年目の2022-23シーズンは一列高い右ウイングバックのポジションで得点力を開花させている室屋成。移籍後初ゴールを含む3点を今季早くも記録するなど、充実の日々を送っている現在とその原点が形作られた過去を本人の口から存分に語ってもらった。
後編では、ピッチ内外における異国への適応と、カタールW杯を控えた現在の日本代表への想いを聞く。
サッカー選手がハノーファーの街を背負う「カルチャー感」
――ここからは今のドイツでのお話を聞かせてください。ドイツ語は結構話せるんですか?
「ドイツ語はあまり話せないです。英語の勉強はしているので、英語でコミュニケーションを取っていますね。チームの中でもドイツ人選手はだいたい英語を話せますし、ドイツ人ではない外国人選手は英語を使うので、そういう選手たちと一緒にいることが多いですし、監督とも英語で話しています。もう少し若かったらドイツ語を覚えてもいいかなと思ったんですけど、こっちに来たのがもう26歳ぐらいのタイミングだったので、どれぐらいドイツにいられるのかもわからないですし、いろいろ考えても英語を話せた方がいいかなと思ったので、もう英語だけはやろうと決めて、毎日勉強しています」
――日常生活も英語でどうにかなる感じですか?
「そうですね。英語か、あとはもうジェスチャーです(笑)。もうそれがあれば全然余裕で行けますね」
――それなら世界のどこでも生きていけそうですね。
「そう思います。何かに困るような言葉の壁は全然ないですね」
――こうやってお話していると、その場の環境にすぐ馴染んでいきそうな雰囲気をお持ちですね。
「そうですね。割と何でも受け入れられるタイプなので、そういうことは得意なのかもしれないです」
――ハノーファーは住み心地の良い街ですか?
「住み心地はメチャメチャいいですよ。緑も多くて、自然が豊かで、みんなのんびりしていて、凄く生活しやすいと思います。ちょうど良い田舎感があって。熊取よりは全然都会ですけど(笑)」
――クラブも100年以上の歴史があるクラブですが、そういう伝統を感じることはありますか?
「それはもう本当に感じます。サッカーがカルチャーになっていることを実感しますね。今は2部ですけど、試合の時にはスタジアムに5万人近いお客さんが入りますし、スーパーで買い物をしていたらレジ打ちをしているおばちゃんが声を掛けてきてくれますし、家の近所のおじいちゃんやおばあちゃんが『この前の試合良かったぞ』みたいに言ってくれますし、そういうのがこっちにいて一番楽しいことですね。本当に『サッカーのカルチャー感、凄いな』って」
――サッカー選手としての地位が尊重されている感じですか?
「もちろん尊重されているんですけど、それ以上にみんなの生活の中心にサッカーがあるので、それを凄く感じます。週末にみんながサッカーを見に来ますし、それはおじいちゃんおばあちゃんも若い子たちもそうで、昔の方が凄かったとは聞きますけど、それでも僕にしてみればサポーターの盛り上がりや雰囲気は、とにかく凄いなと感じますね」
――それこそおじいちゃんおばあちゃんが、またその子供たちや孫にサッカーというカルチャーを伝えていくわけですよね。
「それが素晴らしいですよね。そういうことを知れたので、こっちに来てからは、より『ああ、サッカーをやっていて良かったな』と感じています」
――そうするとサッカー自体に対する意識も変わりましたか?
「かなり変わりました。日本だとサッカーはスポーツの1つというか、エンターテイメントの1つというイメージでしたけど、こっちではサッカーが『みんなのもの』というか、言葉にするのは難しいですけど、その街に住んでいる人の中心にあるものだということは感じるので、その違いは実感しています。チーム自体が街の中心にあって、みんなが応援してくれるので、選手も街を背負っている感覚がありますし、その中で生活できることが楽しいです」
「メッチャ面白い」1対1で盛り上がる国民性
――今までハノーファーには日本人選手が多く在籍してきましたが、その影響を感じる部分はありますか?
「1年目に(原口)元気くんがいて、かなり助けてもらいましたし、本当に良くしてくれました。元気くん自体も凄く活躍して、サポーターに愛されていたので、僕が行った時もサポーターがすんなり受け入れてくれたことは感じました。元気くんの存在はかなりありがたかったですね。ただ、その頃はまだコロナの影響で無観客だったんですよね……」
――そうか。移籍したタイミングは今以上にコロナ禍の真っ只中でしたね。
「そうなんですよ。だから、ようやくドイツの観客の凄さを今になって感じています」
――そうすると、これだけ観客が入るようになったことが、今シーズンのゴール量産を呼んでいると(笑)。
「それはあるかもしれない……いやいや、冗談です(笑)。今はウイングバックでプレーする機会が増えて、1つ前のポジションでできていることが大きいです」
――今シーズンで3季目を迎えたドイツで、ご自身が成長してきた部分に関してはどのように感じてらっしゃいますか?
「まずドイツのサッカーに順応して、どうやって戦うかの立ち振る舞いを自分の中で身体が学んだということがあります。あとは、やっぱり1人でどうにかできるようにならないといけなかったのは大きいですね。日本でプレーしていた時よりもサポートの数も少ないですし、チームでどう崩すかというよりは、1人でどうにかこの局面を乗り越えないといけないということが凄く多くなったので、1人で解決するスキルは自分の中で伸びたんじゃないかなと思っています」
――いわゆる“ツバイカンプフ”と呼ばれる1対1を喜ぶ国民性ですよね。
「そうなんです。メチャメチャ喜びますからね。タックルが決まったら大盛り上がりという感じですし、逆にアウェイでタックルを食らったらその雰囲気に飲み込まれるぐらいの歓声が沸きますし、そういうところは面白いですね」
――そこを「面白い」と捉えるんですね。……
Profile
土屋 雅史
1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!