開幕まで1カ月を切ったワールドカップ・カタール大会だが、やはり気になるのはコロナ禍の影響だろう。登録メンバーが26名に拡大されているとはいえ、やはり新型コロナウイルス対策を講じる必要があるようだ。
どのチームにも言える話かもしれないが、64年ぶりにW杯に出場するウェールズ代表もコロナ対策を講じるようだ。彼らは東京オリンピックでも採用された“バブル方式”を検討しているという。ウェールズ代表で1つの集団を形成したら、なるべく外部とは接触しない方法だ。現状についてウェールズサッカー協会のノエル・ムーニーCEOは“卵の上に乗っているようだ”と『BBC』に説明している。
交流イベントは難しい?
英国ではマスクを着用している人もほとんどいなくなり、日常が戻ってきたように感じる。それでもW杯のためには細心の注意を払う必要がある。とりわけウェールズでは、64年ぶりのW杯出場を盛り上げようと各地でイベントが予定されているのだ。本来ならば選手、もしくはスタッフがそういったイベントに参加してファンとの交流を図るべきだが、なかなか難しいようだ。
「もう、そういう状況(コロナ対策)は終わったとばかり思っていたが、再び“バブル方式”を採用する案が持ち出されている」とムーニーCEOは大会に向けた準備について語る。「カタールへ出発するまでに様々なイベントが予定されているが、我われはリスクを軽減しないといけない」
対象になるイベントの1つが、ロブ・ペイジ監督による公の場でのW杯メンバーの発表だ。大盛り上がりは間違いないイベントなのだが、それさえも再検討の余地があるという。さらにウェールズでは、世界で初めて“サッカー文化のフェスティバル”も開催されることになっているのだ。
11月11日から3日間、ウェールズのレクサムで『Wal Goch(ワル・ゴフ):フットボール狂のためのフェスティバル』というイベントが開かれる。これには多くのサッカー関係者が招かれ、世界中のサッカー映画、音楽、ファッションといった“ファン文化”を紹介し、ファン参加型のイベントなども予定されている。
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— Wal Goch (@gwylwalgoch) September 30, 2022
「卵の上を歩いている感じ」
ムーニーCEOは、W杯出場を祝うイベントを歓迎しつつも懸念を口にする。「各地でイベントが開催される。しかし、我われはそういったイベントへの参加について、医療関係者から真剣に忠告を受けている。できればファンを集めてチームを送り出すようなイベントを開きたいが、規模や人数などを含め、見直しを行っているんだ」
「W杯出場をみんなで祝うのは素敵なことだ。ウェールズ人であることを、“クムリー”(ウェールズ語でウェールズの意)出身であることを誇りに思う瞬間だ。しかし、我われは卵の上を歩いている感じだ。誰かがチーム内に(コロナを)持ち込んでしまったら大変だからね」
ムーニーCEOがファンの盛り上がりに水を差すようなコメントを発表したのには理由がある。ウェールズではコロナ陽性者が増えてきているのだ。英国の国家統計局の推定よると、直近1週間で「25人に1人の割合」で感染者が出ているそうだ。過去11週間で最も感染率が高まっているということになる。さらにインフルエンザの流行についても、まだ比較的落ち着いているとはいえ、3年前の冬以降で最も感染者が増えているというのだ。
こういった状況を受けて、ムーニーCEOは「みんなと抱き合って、キスをしてからW杯に出発したいのだが、リスクを考えないといけない」と総括する。「医療関係者は本当によくやってくれているので、彼らの意見に耳を傾ける。できる限り安全に本大会に臨み、“クムリー”のために戦いたいからね」
64年ぶりのW杯出場に大盛り上がりを見せるウェールズ。彼らは“卵の殻”を割ることなく、無事に世界の舞台に立てるのだろうか。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。