現在21歳のFWロドリゴ(レアル・マドリー)がブラジル代表に初招集されたのは、2019年11月の親善試合だった。それ以降、ここまで12試合で招集を受け、途中出場ながら7試合でプレー、1ゴールを決めている。
そんなロドリゴは、現在ベテランから若手まで豊富な人材がひしめくブラジル代表のFW陣の中で、1カ月後に迫るFIFAワールドカップの招集枠を勝ち取るだろうと評価が高まっている。
本職ではないボランチでプレー
Rマドリーでは、今季もすでにUEFAチャンピオンズリーグでの1ゴールを含め、5ゴール3アシストを決めている。2019年に加入してから、出場機会が減った時期もあったが、特に今年に入ってからの活躍は目覚ましい。昨季のCLでは11試合出場で5得点。準決勝で2ゴールを決め、決勝進出に貢献したことは記憶に新しい。今季はカリム・ベンゼマのケガで増えた出場機会を大いに生かしており、“ベンゼマの後継者”の呼び声も高い。
そんなロドリゴが、ブラジル代表にとってW杯前最後の親善試合となった9月27日チュニジア戦の78分、セカンドボランチのフレッジ(マンチェスター・ユナイテッド)と交代でピッチに投入された。そして、そのままフレッジとほぼ同じような役割を果たした。
2019-20シーズンのCLガラタサライ戦で左足、右足、ヘッドでハットトリックを達成するなど幅広い技術力を備えるロドリゴは、両利きであるためどちらのサイドでもプレーできる。CFや偽9番の役割も可能だ。
サントスに所属していた頃、当時のジャイール監督が「ブラジル代表でプレーするためには、前方のどのポジションでもプレーできなければならない」とロドリゴを鍛え上げたことがベースとなっている。Rマドリー移籍後も、ジネディーヌ・ジダンやカルロ・アンチェロッティの指揮下でプレーすることによってユーティリティな特徴が磨かれたと、ロドリゴ自身が語っている。
その彼がセカンドボランチのポジションで試されたのは、チッチ監督が必要とする場面で起用されるチャンスが増えるということだ。試合後、ロドリゴは満足感を語った。
「チッチが今日、僕に指示したのは、僕自身まだプレーしたことのない新しい役割だった。実質的なセカンドボランチだからね。それで試合に出られて、とても幸せだよ。時間が短かったとは言え、少しでも僕のサッカーを見せることができた」
ペナルティーエリアへのクロスを上げるなど、良い形でチャンスを生み出すこともできたため、彼自身、手応えを感じる試合となった。
普段は無口、ピッチでは雄弁
チッチはここまで、戦術や選手の起用法、ポジショニングなど、状況に応じて選択肢を増やしてきた。チームで集まる機会が少ないスケジュールの中、練習ではゲーム形式以上に、適切な動きを叩き込むことに時間を割く。もちろん試合では選手の臨機応変な判断も大いに歓迎し、必要に応じて試合中にも変更を加えていく。
2018年W杯では、選手がケガをした際にバランスを取り戻すことに手間取ったとチッチ自身が語っていた。それを教訓として、いかなる状況にも現有戦力でより良く対応できるよう経験を積み重ねている。
この9月の遠征でも、右SBのダニエウ・アウベスをコンディション不良で招集できないなか、代役を招集するのではなく、そのポジションの経験があるCBミリトンを起用していた。現在のブラジル代表では、チッチのサッカーを理解しているユーティリティープレーヤーの重要性が増しているのだ。
ロドリゴも、そういうチッチの方針を理解している。そのため、FW同士の交代ではなく、また、より攻撃的にするためにボランチからFWに入れ替えるといった意図でもない、まさにセカンドボランチを経験するために起用されたことは、大きな自信となったようだ。
オフ・ザ・ピッチではやや大人しく、控えめなタイプに見える。しかし、いざピッチに立つと非常に冷静に役割をこなし、プレーについては謙虚な中にも自信を持った堂々とした口調で語る。W杯出場への期待感が増したかを聞いた時も、ロドリゴは凛とした表情でこう答えた。
「確かに期待感は大きく増した。これまでもすごく期待していたけど、今はさらに大きくなった。でも、もちろんクラブで良いプレーを続けなければならないね。もう時間がないから、クラブで良い準備をしたい。良い状態でW杯に行けるようにね」
W杯招集メンバーの発表は、11月7日に迫っている。
Photo: Kiyomi Fujiwara, Lucas Figueiredo/CBF
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。