女子サッカーの反乱が止まらない。
前回の記事で代表監督の解任を直訴したニュースをお伝えしたが、今度は15人が「精神面の不良」により招集を辞退した。15人のうち6人は今夏の女子EURO2022でレギュラーだった。
10月7日と10日の親善試合、スウェーデン戦とアメリカ戦の招集メンバーは今週末に発表される。来夏のW杯まで1年を切り、一つひとつの試合が重要なこの時期、前代未聞の異常な事態となっている。
“ルール違反”のレッテルを貼るも…
「監督の任免権は連盟にある」と、スペインサッカー連盟の態度は一貫している。前回はこの筋論での幕引きを図った。
ホルヘ・ビルダ監督は「サッカー界の暗黙の了解を破った」とも指摘。暗黙の了解とは、ロッカールーム内の問題はロッカールームの内で解決する、というものだ。
いずれにせよ、連盟側は彼女たちが疑問視した監督の手腕というテクニカルな部分には踏み込まず、門前払いをした。“首謀者”の選手たちを記者会見に引っ張り出し、「監督解任を訴えたわけではなく改革を訴えた」という反省の弁を引き出して、“ルールを守る連盟とルール違反者の女子”と印象付けて一件落着とした。
だが、今回15人の同じ文面の辞退メールが届くと連盟の怒りは爆発。15人の名前を公表した上で「招集拒否は重大な違反で、2年から5年の活動停止のペナルティの対象になる」と脅した。
これに対して選手たちは再反論、心の健康問題というプライベートな問題を扱う私信を公表した、拒否ではなく辞退である、と指摘した。
周到に用意された15人のメール
これは連盟への痛烈なカウンターパンチだろう。
私信の公表がルール違反であることは論を待たない。招集されて「拒否」したのではなく、招集前の「辞退」であったことも明白だ。昨夏のEURO2020前、イニゴ・マルティネスは精神的に戦える状態ではないことを理由に招集を辞退した。あの時は勇気ある行為だと称賛されていた。
15人がそろって精神不良というのはおかしいし、文面が同じというのも不自然だ。だが、メールは監督の解任を訴えたわけではなく、ただ健康の問題で招集辞退を申し出ただけ。それを「監督を解任しないと招集に応じない」という脅迫だと解釈したのは連盟側である。メールの文面は周到に計算・用意されたもので、彼女たちの所属クラブの弁護士が作成に関わったと言われている。
今回の集団招集辞退で、筋論で押し切ることは難しくなった。連盟自身が筋を外れた対応をしてしまったからだ。実はなぜそこまで監督が嫌われるのかが不明のままなのだが、そこも今後明らかにされるかもしれない。まずは今週末、連盟会長と監督がどうリアクションするのかに注目したい。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。