去る8月、世界中のサッカー指導者の間で密かに注目を浴びたのが、ボルシアMGでGKコーチを任されているファビアン・オッテのツイートだ。
「聴覚を制限することで視覚が向上する?」という言葉とともに投稿された動画には、ヤン・ゾマーをはじめとするGK陣がイヤーディフェンダーを装着しながらパス交換を行う驚きの練習風景が収められていた。その背景にある意図を、オッテが博士号を取得したケルン体育大学大学院でゲーム分析を学んでいるcologne_note氏に、論文を参照しながら解説してもらおう。
ゾマーを指導する年下の理論派GKコーチ
1試合で19セーブ。これはボルシアMGの守護神ヤン・ゾマーが、先月のバイエルン戦で打ち立てたリーグ記録だ。慎重派のダニエル・ファルケ監督にも「マヌエル・ノイアーと並んでブンデスリーガのベストGK」と手放しで称賛されたスイス代表の名手は今年の12月で34歳を迎えるが、それでも今なお成長を続けている。
そんな彼と咋シーズンからボルシアMGでトレーニングを行っているのが、新世代GKコーチのファビアン・オッテだ。ゾマーは自身よりも2歳年下(31歳)の指南役の働きぶりをクラブ公式YouTubeチャンネルでこう評している。
「彼は良いやつで、僕よりも若いんだ。少し奇妙だと言わなければいけないね。でも素晴らしい仕事をしているし、彼との練習は楽しいよ。彼の練習は革新的で、新しいことを磨き上げながら、毎日僕たちを成長させようとトライしている」
指導者業の傍らで論文を発表する研究者でもあるオッテのトレーニング理論については『フットボリスタ第89号』で紹介した通り。そこで今回は、エコロジカル・アプローチや非線形教育学、制約主導型アプローチに基づいたGKトレーニングコンセプトを構築している彼が、それらの理論を練習現場でどのように運用しているのかを見ていきたい。
ゴーグルに人形…道具で知覚プロセスを操作
エコロジカルな視点でのトレーニングでは、選手とパフォーマンス環境の間の相互関係、選手による環境情報とその知覚に応じた自身のアクションの調整に焦点が当てられる。指導者はその環境情報の複雑性の操作(課題制約の操作)によって、選手が知覚した情報とそれに対応するアクションを機能的に結びつけることをサポート、あるいはその能力の向上を促すことができる。
「僕たちは知覚に働きかけることを心がけている」
クラブ公式ポッドキャストでそう語ったオッテは、様々なトレーニング器具を使用して選手が知覚する情報の複雑性を操作している。
スポーツのトレーニングで操作可能な知覚情報としてまず挙げられるのが、視覚から得られる情報だろう。予測と反応の大部分がそれをもとに繰り返されるサッカーでは、その重要度が大きいことは明白だ。
この情報の複雑性を操作するために、例えばオッテは様々な種類のゴーグルをトレーニングで使用している。……
Profile
cologne_note
ドイツ在住。日本の大学を卒業後に渡独。ケルン体育大学でスポーツ科学を学び、大学院ではゲーム分析を専攻。ケルン市内のクラブでこれまでU-10 からU-14 の年代を指導者として担当。ドイツサッカー連盟指導者B 級ライセンス保有。Twitter アカウント:@cologne_note