機能性と説得力。アトレティコと欧州王者のスコア以上の巨大な差とは【アトレティコ・マドリー 1-2 レアル・マドリー】
2022-23のラ・リーガで初の3強直接対決となったマドリッドダービーは、アウェイのレアル・マドリーが1-2でアトレティコを下し全勝を維持した。勝敗を分けたポイントについて、アトレティで自身のnoteにて毎試合マッチレビューを執筆しているがーすけ氏(@galabbit)がアトレティコ視点を中心に分析する。
ラ・リーガ171度目、通算230度目のマドリッドダービー、エル・デルビである。
結果は1-2というスコア以上にレアル・マドリーの強さばかりが目立つ内容で、アトレティコはホームで手痛い敗戦となった。両チームにとって2022-23シーズン最初の大一番となった対戦をレビューする。
我らがアトレティコ・マドリーは今季、キーラン・トリッピアー退団後の懸念点であった右SBにウディネーゼからナウエル・モリーナを獲得。さらにドルトムントを退団したアクセル・ウィツェルをフリーで補強し、ディエゴ・シメオネの愛する息子たち、サウール・ニゲスとアルバロ・モラタがそれぞれレンタル先のチェルシー、ユベントスから復帰した。マーケット終盤には出場機会を求めたレナン・ロディがノッティンガム・フォレストへの移籍を選び、代わりにトッテナムからセルヒオ・レギロンをレンタルで獲得している。
近年CBを3枚並べるシステムで戦うアトレティコは、新加入のウィツェルをCB中央で起用している点が今季の配置の特徴となる。
WBを高い位置に押し上げてボールを保持し、豊富なFW陣を生かした攻撃を展開するために後方ビルドアップの安定を求めるシメオネの思い切った起用と言える。
アトレティコは“攻撃的に戦いたいが、特徴である強固な守備を手放したくない”というジレンマと戦い始めて早数年、いまだ理想のバランスにたどり着けずにもがいている。今季も守備ではプレス開始位置とウイングバック(WB)の配置の高低に悩み、攻撃では最終ラインに同数でプレスをかけられた時のボールの循環に苦しんでいる。
対するはライバルクラブの白い巨人、レアル・マドリー。昨シーズンはカルロ・アンチェロッティが監督に復帰し、カリム・ベンゼマとビニシウス・ジュニオールの強力デュオが躍動。ラ・リーガとCLを制覇した。マルセロ、イスコ、ギャレス・ベイルというクラブレジェンドが去った今シーズンは、8月下旬にカセミロの電撃退団を経験したが揺るがず、騒がず。来たるべき未来が少し早く来ただけとでも言うような落ち着きでラ・リーガ、CLをともに全勝でこの日を迎えた。
両チームスタメン
ホームのアトレティコはセルタ戦、CLレバークーゼン戦を欠場した守護神ヤン・オブラクがスタメン復帰。そしてFWには今季“60分からの男”と言われていたアントワーヌ・グリーズマンがついに初スタメン。
レアル・マドリーはエデル・ミリトンが復帰。カセミロの抜けたアンカーポジションにはオレリアン・チュアメニが入り、大黒柱にして先季のラ・リーガとCL得点王のベンゼマが負傷欠場となるFWの並びは右からフェデリコ・バルベルデ、ロドリゴ、ビニシウスとなった。
アトレティコの攻守の狙い
レアル・マドリーが2点を先制した前半。アトレティコは比較的ボールを持ってプレーしながらも明確なチャンスを作れず、逆にレアル・マドリーはアトレティコの攻撃を効果的に防ぎながら得意のプレス回避で陣地回復、得点まで繋げた。
まず、アトレティコの非保持は最近の試合と同様、果敢な前線からのボールプレスとチーム全体で連動する守備を基本とし、レアル・マドリーに圧力をかけることを目的としていた。
今季基本形としている[5-3-2]の形でのプレス。2トップは対面するCBの選択肢を限定。WBの配置と中盤の3人による圧力で対人プレスを仕掛け、レアル・マドリー最終ラインからの配球を阻害していく。
この試合では、圧力のかけ方は左右で異なった。まず右サイド。WBのマルコス・ジョレンテは対面するビニシウスのマークを優先し、相手SBフェルラン・メンディまでプッシュすることは控えた。このメンディの位置にはIHのロドリゴ・デ・パウルが出張。今季、アトレティコのIHはマークを担当する相手までのアプローチ距離が長くなるケースが多い。デ・パウルはこの仕事を苦もなくこなせる選手だ。
逆に左サイドはWBのヤニック・フェレイラ・カラスコがSBのダニ・カルバハルを捕まえに行き、2トップと連動してプレスをかけた。これは右WGのバルベルデのマークをおおむね後ろのヘイニウドに任せることを意味する。と同時に、アトレティコとしてはドリブル突破に特徴のあるカラスコを高い位置に残す意味もあった。
アトレティコのビルドアップは普段通り、3人のCBがやや広めに幅を取ってポジションし、両WBを高い位置に押し上げる。レアル・マドリーの4バックのポジションを広げさせると同時に最終ラインを押し下げ、3人のMFがボールを受け取って前進する狙いを見せる。
この日のアトレティコの前進の特徴は、ついに今季初めてスタメン出場となったグリーズマンの長所を全面に出していくことにあった。
レアル・マドリーは両WG、特に右のバルベルデの帰陣意識が高く、アトレティコは中盤でシンプルな数的優位を作って効果的にレアル・マドリーゴールに迫ることができない。そこでグリーズマンが中盤まで下りてきてボールを引き取るプラス1の役割を担った。ボールを受け取ってドリブルする、という基本技術が今なおアトレティコで一番高いグリーズマンの特徴を生かしていく。同じく自陣でボールを奪った場面でもグリーズマンがボール奪取した選手に近づきボールを受け取り、プレス回避をサポートした。
この方法は一定の成果はあった。というより、“グリーズマンのサポートがなければ前進すらままならなかった”という方が正しい。ただし、グリーズマンが中盤選手の仕事を助けることによって前線にジョアン・フェリックスしかいない、という状況が常となった。いちおう、この状況に対してシメオネも無策ではなかった。非保持の解説と連動するが、この対策のためにカラスコを高い位置に残す守備を狙っていた。グリーズマンが中盤にポジションを落とすことによって、フェリックスとカラスコ、そして屈指の上下動能力を持つジョレンテの3人を前線に配置し、相手最終ラインにアタックする。メンバー構成から考えても大外からの高いクロスでチャンスになるイメージは持てず、スピードとドリブル突破を軸にしたいアトレティコは前半のチャンスメイクをこの3人のスピードに乗った突破に懸けた。実際カラスコは12分に内側へのランニングでコケのスルーパスを引き出して際どいシュートを放っている。
しかし結果から見るとフェリックスはミリトンに、両翼は上記のカラスコの裏抜けと、40分にカラスコがペナルティエリア内へ侵入した場面以外は、それぞれ対面する相手SBを上回る個を発揮する場面は見られず、危なげなく封殺された。この両WBにクリーンにボールを入れ、彼らが対面する相手を上回ることこそが攻撃における大きな比重を占めるアトレティコとしては、なかなか切り崩すのが難しい展開となった。
レアル・マドリーのプレス回避と得点
前半の2得点で試合を決めてしまったレアル・マドリー。その2つの場面を中心に振り返っていく。まずはビルドアップから。……
Profile
がーすけ
シメオネのサッカーを深く知るべくアトレティコ・マドリーのマッチレビューを書く一般人。カッコいい音楽と走るのが速いお馬さんと可愛いシベリアンハスキーと可愛い柴犬が大好き。最近はシーズーに興味がある。本当は川崎フロンターレのファン。